1.無効審判の基本的な考え方
商標法には「無効審判」という制度があります。この制度は、商標登録に重大な問題(無効理由)がある場合、その登録を取り消すための仕組みです。
具体的には、審査の段階で本来却下されるべき商標が誤って登録されてしまった場合に、この制度を利用して登録を取り消すことができます。
無効審判が必要な理由
無効審判の目的は、誤った登録状態を放置しないことにあります。
商標権は非常に強力な権利で、他人がその商標を使用することを排除し、独占的に使用することができます。そのため、本来登録されるべきではなかった商標が登録されたままでは、公平性を損ない、不適切な権利行使が行われるリスクがあります。
これを防ぐために、無効審判が重要な役割を果たします。
無効審判は、商標制度の適正運用を守るために欠かせない手続きです。
2.商標登録無効審判の詳細解説
商標登録無効審判は、誤って登録された商標を取り消すための重要な手続きです。商標法第46条で規定されており、その適用条件や流れについて詳しく理解することが必要です。以下に要点を整理して解説します。
(1) 無効理由
商標登録が無効となる理由は限定されています。以下が主な理由とその概要です:
- 第3条違反:識別力を欠く商標が登録されている場合
- 第4条第1項違反:公益性に反する商標、他人の登録商標と紛らわしい商標など
- 第7条の2違反:地域団体商標の要件に適合しない場合
- 第8条違反:同一または類似商標の優先登録に関する規定違反
- 取消審判後の再登録禁止違反:取り消された商標が再登録された場合
- 外国人の権利享有能力違反:外国人が権利を有する条件を満たしていない場合
- 条約違反:国際条約に違反する商標登録
- 提出物件の要件違反:新しい商標に必要な提出要件が満たされていない場合
- 権利承継違反:権利を承継していない者による商標登録
- 後発的理由:登録後に発生した公益違反や権利喪失など
後発的理由としては、外国人の権利喪失や公益的要件の欠如、地域団体商標の条件喪失が含まれます。
(2) 請求人
無効審判を請求するには利害関係が必要です。これは「利益なければ訴権なし」の原則に基づいています。
(3) 請求時期
商標登録後に請求可能で、権利消滅後も一定期間内であれば請求できます。ただし、除斥期間(登録後5年)を超えると原則として請求できません。
除斥期間が経過しても、以下のような抗弁が可能です:
- 商標権の効力が及ばないことを主張
- 先使用による権利を主張
(4) 手続の流れ
- 1. 審判請求書の提出:特許庁長官に提出
- 2. 答弁書の提出:商標権者が無効理由に該当しないことを主張
- 3. 審理と審決:請求が認められる場合、商標権は「初めから存在しなかった」とみなされる
(5) 効果
- 請求が認められた場合:商標権は遡及的に無効
- 請求が認められなかった場合:商標登録は維持
請求取り下げも可能ですが、答弁書提出後は相手方の同意が必要で、審決確定後は取り下げができなくなります。
(6) 不服申立て
審判の結果に不服がある場合、審決謄本送達日から30日以内に東京高等裁判所に提訴可能です。
(7) その他の注意点
無効審判請求が行われた場合、専用使用権者や通常使用権者に通知が出され、手続きに参加する機会が与えられます。
ここがポイント
商標登録無効審判は、公正な商標制度を守るための重要な制度です。適切な理由と手続きで請求すれば、誤った登録状態を是正し、健全な市場競争を確保できます。商標に関するトラブルを未然に防ぐため、専門家の助言を受けることをお勧めします。
3.まとめ:無効審判を請求する場面とその対処法
商標登録の無効審判を請求する必要が生じる典型的なケースは、商標権侵害の警告を受けた場合です。このような状況では、相手の商標登録が正当なものであるかを慎重に確認する必要があります。
商標権侵害の警告を受けたときの対応
警告を受けた場合でも、冷静に対応することが大切です。以下のステップを参考にしてください。
1. 商標登録の正当性を確認する
相手の商標が無効理由に該当する場合、その商標権は遡及的に無効となる可能性があります。
2. 証拠の収集
無効理由を立証するために必要な証拠を集めます。例えば、相手の商標が識別力を欠いている、他人の登録商標と類似しているなどの点を調べます。
3. 専門家に相談
商標法の知識が求められるため、弁理士や弁護士の商標登録の専門家に相談し、具体的な対応策を練ることをお勧めします。
無効審判が有効な場合
無効審判の請求が認められると、問題の商標登録は「初めから存在しなかったもの」とみなされ、警告や損害賠償請求に対する有効な防御手段となります。
冷静な判断と迅速な行動が鍵
商標権侵害に関する問題は、放置すると大きな損失につながる可能性があります。一方で、無効審判の請求は手続きが複雑で時間がかかる場合もあるため、早めに専門家の力を借りることが解決への近道です。
無効審判は、商標に関する権利紛争を解決する強力なツールです。もし商標権侵害の警告を受けた場合には、焦らず、的確な対応を進めていきましょう。
ファーイースト国際特許事務所弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247