調査で同一商標が見つかったら?

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1.調査

商標登録出願を行う場合、他人の先行商標を調査することが必要です。

他人の先行商標を調査することにより、出願商標の登録の可能性を把握することができ、商標登録出願の手続の見通しを立てることができます。

例えば、出願商標と同一又は類似の他人の先行商標が存在した場合、その先行商標が出願商標の指定商品等と同一又は類似の商品等を指定するものであれば、出願商標は商標登録を受けることはできません。

商標登録出願を行えば、商標登録の可否は、いずれ明らかになるものの、特許庁から応答が返ってくるまで、商標登録出願後9~11ヶ月の時間を要しています。

商標登録の可否が明らかになるまで、短いとはいえない時間を要します。

調査により、あらかじめ、商標登録の可能性を把握した上、適切な出願商標を選択することにより、お金や時間を有効に活用して商標登録を受けることが可能となります。

調査は、各種のデータベースを利用して行います。

独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供する「特許情報プラットフォーム」を利用すれば、費用を負担することなく、調査することが可能です。

ただ、調査に際しては、商標の類否判断など専門的な知見を必要とします。

商標登録の可能性を的確に把握するならば、専門家に依頼することが望ましいといえます。

2.出願商標の再検討

調査の結果、同一の先行商標が発見された場合、出願商標の再検討が必要となります。

再検討の際、ゼロベースで見直して出願商標を再考することもあれば、あくまで元の商標をベースにして出願商標を再考することもあります。

元の商標をベースにする場合、文字部分を元の商標に付加した上で、代わりの出願商標とすることがあります。

ただ、元の商標のイメージをできるだけ維持したいとの意識が働くためか、元の商標に付加する文字部分として識別力の乏しいものを選択する傾向が見受けられます。

確かに、商標の類否判断においては、全体観察を原則とするため、元の商標に文字部分を付加した場合、その文字部分も含めて全体として観察した上で類否判断が行われます。

ただ、元の商標に付加する文字部分の識別力が乏しい場合、当該文字部分は重視されないことになり、結局、代わりの出願商標も先行商標に類似するものと判断されるリスクを避けることができないことになります。

以下では、参考のため、商標の類否判断において、識別力の乏しい部分が与える影響が問題となった事例を紹介します。

(1)地名

地名は、商品の産地や役務の提供の場所などを表示するものとして、識別力を有しないと判断される傾向にあります。

そのため、調査の結果、同一の先行商標が発見された場合、元の商標に地名を付加したとしても、当該先行商標と非類似とはいいがたく、拒絶される可能性が高いといわざるを得ません。

確かに、上述のとおり、商標の類否判断においては、全体観察を原則とするため、商標登録出願の審査や拒絶査定不服審判の段階で、非類似と判断され商標登録を受けることもあります。

ただ、要部の識別力が高いと判断される場合など、分離観察の上、先行商標と類似すると判断される可能性が高く、結局、商標登録を受けることはできないことになります。

例えば、以下の「ENOTECA」事件では、知的財産高等裁判所は、原告商標と本件商標は類似すると判断した上、商標登録を有効とした特許庁の審決を取り消し、本件商標に係る商標登録を無効とする方向の判決を下しています。

【「ENOTECA」事件】

(本件商標)
商標Enoteca Italianaの画像
(引用商標)
商標ENOTECAの画像
(判旨)
 本件商標の「Enoteca」の文字部分から,取引者,需要者において,原告の周知の営業表示としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じる・・・。
 他方で,・・・,本件商標の「italiana」の文字部分から「イタリアの」という観念を生じるが,本件商標の指定役務との関係においては,本件商標の「italiana」の文字部分は,その役務の提供の場所,提供の用に供される物等がイタリアに関連することを示すものと認識されるにとどまるものといえる。
 以上を総合すると,本件商標が・・・ワインに関連する役務に使用された場合には,本件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は,取引者,需要者に対し,上記各役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ,独立して役務の出所識別標識として機能し得るものといえる。
 そうすると,本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として抽出し,これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。
(知財高判平成28年1月28日平成27年(行ケ)第10058号)

裁判所と特許庁の判断が分かれた理由として、本件商標の周知性の判断が裁判所と特許庁との間で異なり、裁判所が本件商標の周知性を認めなかった点も挙げられます。

ただ、本件商標の「italiana」の文字部分が地名にすぎず、識別力に乏しいことに鑑みれば、裁判所の判断も想定の範囲内であるということができます。

(2)業種

「カフェ」、「ホテル」、「学院」など業種を示す語は、役務の質を表示するものとして識別力を有しないと判断される傾向にあります。

調査の結果、同一の先行商標が発見された場合、依頼者の中には、代わりの商標として、元の商標に業種を示す語を付加した商標を選択する方もおられますが、上述した地名の場合と同様、そうした商標も当該先行商標と非類似であるとはいいがたく、拒絶される可能性が高いとはいわざるを得ません。

この点、商標登録出願の審査の段階において、類似すると判断されたとしても、拒絶査定不服審判の段階においては、全体観察の原則に基づき、非類似と判断されることもあるようです。

ただ、要部の識別力が高いと判断される場合などでは、上述の地名を付加したときと同様、分離観察の上、先行商標と類似すると判断される可能性が高いといわざるを得ず、こうした商標をあえて選択することはお勧めできません。

例えば、以下の「モンテローザカフェ」事件では、商標登録出願の審査段階において、拒絶査定が発せられたものの、拒絶査定不服審判の結果、商標登録を受けた「モンテローザカフェ」が、後日請求された無効審判の結果、商標登録が無効とされ、知的財産高等裁判所もかかる特許庁の判断を追認しました。

【「モンテローザカフェ」事件】

(本件商標)
モンテローザカフェの文字登録商標
(引用商標)
モンテローザの商標画像
(判旨)
 本件商標は,「モンテローザカフェ」の片仮名文字を標準文字で書して成るものであり,「モンテローザ」と「カフェ」の二つの文字部分の結合から成っている。
 ・・・そして,「モンテローザカフェ」が「モンテローザ」と「カフェ」の二つの語から成ることは容易に理解できるところ,「カフェ」の語は,我が国に多数存在する「主としてコーヒーその他の飲料を供する店,珈琲店,喫茶店」を意味する語として一般に定着している業態名であって,本件商標の指定役務との関係では役務を提供する場所,あるいは提供する役務の質(業種)を示すものとして,自他役務の識別標識としての機能は弱く,原則としてそこに出所識別機能としての称呼,観念は生じないと認められる。
 一方,「モンテローザ」の文字部分は,上記のとおり,アルプス山脈中の山の名前を意味する語であり,外国の自然地名ではあるが,具体的にイタリアの山の名前であることを知らない者にとっても,語感の響きから何となくヨーロッパの地名に由来するような印象を与えるしゃれた語であって,日本に多数存在する喫茶店の別名として定着している「カフェ」の業態を特定ないし識別する部分ということができるから,役務の自他識別標識として強く支配的な印象を与え,その機能を果たし得るものと認められる。
 そうすると,本件商標は,「モンテローザ」の文字部分と「カフェ」の文字部分を一体として観察することが取引上自然といえるまでに結合していると認めるのは相当でなく,むしろ,自他識別標識としての機能を果たし得ると認められる「モンテローザ」の部分を抽出して,引用商標との類否判断をするのが相当である。
(知財高判平成23年9月27日平成23年(行ケ)第10081号)

(3)記号

「!」(感嘆符)、「?」(疑問符)、「+」(プラス記号)などの記号は、極めて簡単、かつ、ありふれたものとして、識別力を有しないと判断される傾向にあります。

調査の結果、同一の先行商標が発見された場合、依頼者の中には、代わりの商標として、元の商標に記号を付加した商標を選択する方もおられますが、上述した地名や業種の場合と同様、そうした商標も当該先行商標と非類似であるとはいいがたく、拒絶される可能性が高いとはいわざるを得ません。

例えば、以下の「ピノプラス」事件では、商標登録出願の審査の結果、本件商標は商標登録を受けたものの、商標登録異議が申し立てられた結果、商標登録が取り消され、知的財産高等裁判所もかかる特許庁の判断を追認しました。

【「ピノプラス」事件】

(本件商標)
ピノブラスの商標画像
(引用商標)
ピノの商標画像
pinoの商標画像
(判旨)
 本件商標は,「pino」の大きなローマ字を中核として,その右上に小さな「+」記号を,「pino」の下に「ピノプラス」の小さなカタカナ文字をかっこ書きしてなるものであり(別紙1参照),「ピノプラス」のカタカナ文字は,「pino」のローマ字及び「+」記号の表音を特定したものと解される。
 そして,本件商標において,ローマ字の「pino」部分が占める比率が非常に大きいことからすれば,「pino+」を一体として捉えるよりも,「pino」部分こそが,取引者,需要者に対して出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと解するのが相当であり,しかも,「+」部分は,何かを付加するという補助的な意味を示すもので,同部分自体に,出所識別標識としての称呼,観念は生じにくいといえるため,本件商標につき,「pino」部分を抽出し,同部分こそが要部であると認定することが許容されるばかりか,より実態に即するといえる。
 そうすると,本件商標に接する需要者が「pino」の文字部分に着目して取引に当たる場合も少なくないものと解され,当該文字部分に相応して「ピノ」の称呼をも生ずるものというのが相当である。
(知財高判平成22年2月16日平成21年(行ケ)第10236号)

3.おわりに

地名、業種、記号といった識別力に乏しいものを付加したとしても、非類似と判断される可能性は低いといえます。

また、仮に、非類似であると判断され商標登録を受けることができたとしても、審査官の判断が最終判断というわけではなく審判等により商標登録の有効性を否定されることもありますし、審判等で商標登録の有効性が認められたとしても、裁判所が商標登録の有効性を否定するといった事態も存在します。

こうしたリスクを抱え込むことは適切とはいいがたい以上、出願商標の検討に際しては、先行商標との関係で可能な限り問題の少ないものを選択することをお勧めします。

ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247

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