索 引
1. ファストトラック審査は休止中です
商標のファストトラック審査は、通常の審査期間が短くなったことを受けて、2023年3月末で休止されました。特許庁の案内では再開時期は未定です。これから出願する商標について、商品名を所定のリストに合わせればファストトラック審査になる、という扱いはありません。
以前の制度は、基準に掲載された商品・役務だけを出願時に指定し、審査着手までその指定を補正しないなどの条件を満たした案件を、自動的に早く審査するものでした。別途の申請は不要でしたが、現在利用できる「早期審査」は申出が必要な別の制度です。休止の案内は、特許庁のファストトラック審査のページに掲載されています。
早く登録したいときは、早期審査の条件を確かめるところから始めます。ただし、早くするために商品を削ってしまうと、その商品について権利を取り直すことにもなりかねません。先に、何を守るための出願なのかを確認してください。
2. 早期審査を利用できる3つの対象
早期審査には、出願した商標の使用、または使用準備が相当程度進んでいることが前提です。「急いでいる」「商品名がリストに載っている」という事情だけでは足りません。次の3つは、それぞれ満たす条件の組み合わせが違います。
対象1:商標の使用等に加えて緊急性がある
指定商品・役務の一部について商標を使用しているか、使用準備が相当程度進んでいて、権利化を急ぐ事情がある場合です。使用者は出願人のほか、許諾を受けたライセンシーも含まれます。たとえば、商標の使用について第三者から侵害の警告を受けている場合などが該当します。
対象2:使用等をしている商品・役務だけを指定している
願書に書いたすべての商品・役務について、出願人による使用または相当程度進んだ使用準備を示す場合です。一つだけ販売実績があれば、残りも自動的に認められるという条件ではありません。
対象3:一部で使用等をしていて、すべての表示が基準に合う
指定商品・役務の一部で出願人が商標を使用しているか、使用準備が相当程度進んでおり、指定したすべての商品・役務の表示が所定の基準等に掲載されている場合です。対象2と違い、指定した商品すべてについて使用の証明をする仕組みではありません。表示が似ているだけでは対象にならない点にも気を付けてください。
上記の条件は、特許庁「商標早期審査・早期審理の概要」と早期審査に関するQ&Aで確認できます。
特許庁サイト「商標早期審査・早期審理の概要」より引用
この図は本記事の初出時に掲載したものです。2025年10月1日以降の出願には改訂後の運用が適用されます。ライセンシーが使用する案件の扱いなどは、図だけで判断せず、特許庁の改訂案内と上の条件を併せて確認してください。
3. 使用の資料と事情説明書を用意する
条件に合う場合も、自動的に早期審査へ移るわけではありません。「早期審査に関する事情説明書」を出願時または出願後に提出します。特許庁への申出手数料は不要ですが、代理人に書類作成を依頼する場合の費用は別です。
資料から分かるようにしたいのは、どの商標を、誰が、どの商品やサービスに使っているかです。商品写真、販売ページ、カタログなどを用意する際も、ロゴだけが写っていて商品が分からない資料では説明が不足します。出願した商標と実際の表示に違いがあれば、その違いも確認してください。
使用準備についても、「いつか販売したい」という予定だけでは足りません。販売時期や準備の進み具合を裏付ける資料を見ながら、申出ができる段階かを判断します。第三者の警告を理由に急ぐなら、警告書とその対象になった商品の資料も揃えておくと、相談時に事実関係を伝えやすくなります。
早期審査は、登録しやすくする制度ではありません。審査の結果、拒絶理由が通知されることもあります。先に出願した人を追い越して優先的に権利を得る仕組みでもないため、出願前の調査は通常の審査と同じように行います。
4. 化粧品とアロマオイルの例で考える権利範囲
例えば、現時点で「化粧品」にしか商標「ABC」を使っていないものの、将来的に「アロマオイル」も展開したいと考えている場合を想定しましょう。
対象2だけを前提に、使用準備がまだ進んでいないアロマオイルを削れば、早期審査の条件に近づくかもしれません。しかし、対象3など別の条件で、必要な指定商品を残したまま申し出られないかを先に確認すべきです。「早期審査なら未販売の商品は全部外す」という説明では、選べる方法を見落とします。
アロマオイルを外して登録した後、新たにその商品を指定して権利を取ろうとすると、追加出願が必要になる場合があります。指定商品は、登録後に書き足して広げることができません。元の指定にどこまで含まれるか、似た商品の範囲でどう保護されるかも個別に確認します。
化粧品とアロマオイルの間に商品としての類似性があるかは、その表示や内容を踏まえた判断です。外した商品について第三者が必ず登録できるわけではありませんが、後の出願や使用をめぐる争いの原因にはなります。初めから書けた商品を、速さのためだけに削る必要があるのかを考えてください。
取り直す費用と、最初に併記する費用は違う
同じ区分の中で指定商品を増やしても、特許庁料金は商品数では増えません。ところが、後から別の1区分の出願をして10年分の登録料を一括納付するなら、出願料12,000円と登録料32,900円で計44,900円が改めてかかります。代理人手数料も別途です。料金の計算方法は特許庁「商標出願のいろは」で確認できます。
1区分の出願を二度行えば、特許庁料金も二件分になります。ただし、代理人への依頼条件や納付方法が違えば、支払総額がちょうど2倍になるとは限りません。確かめたいのは、最初に同区分で併記できた商品を外し、別出願の費用を生じさせていないかです。依頼前には、出願から登録までの費用と、削除を提案された商品の一覧を見比べてください。
5. 早期審査を使うかは、残せる権利と日程で判断する
第三者から警告を受けているなど急ぐ事情があれば、早期審査を検討する理由があります。その場合も、何を削らずに申し出られるかを確認したうえで手続を選びます。通常審査で待つ方法と、必要な商品を残せる早期審査の方法の両方を比べるのが出発点です。
当事務所では、2020年頃から、指定商品を狭く絞って審査を通す実務の広がりが権利漏れにつながっていると見ています。早く登録したい依頼者と、拒絶対応やその費用負担を避けたい受任側の都合が重なると、同区分の隣の商品を検討しないまま外しやすくなります。
「未使用商品を残すと不使用取消審判が心配」という説明も、指定を削る前に確かめてください。不使用取消審判は指定商品・役務を特定して請求されます。請求対象に使用商品が含まれる場合は使用の証拠で防御し、未使用商品のみが対象なら、その部分を維持するかを判断することになります。未使用部分の取消しを争わず受け入れるだけなら、そのために応答費用をかける必要はありません。使用中の権利まで当然に全部失う制度ではないのです。請求対象と使用の立証については、特許庁の不使用取消審判Q&Aをご参照ください。
守りたい商品を漏れなく伝えるための準備は、出願前に専門家と協議する確認事項でも取り上げています。急ぐ日程だけでなく、販売中の商品と今後同じ名前で扱う商品を相談時にお伝えください。
6. 早期審査についてよくある質問
Q1. ファストトラック審査の再開を待つべきですか?
再開時期は未定です。待っている間に他人が先に出願することもあるため、現在使える制度を前提に出願時期を検討してください。
Q2. 商品名をリストに合わせれば早期審査になりますか?
表示を合わせるだけでは足りません。対象3でも、一部の商品・役務での使用または相当程度進んだ使用準備を示します。
Q3. 未販売の商品は必ず削らなければなりませんか?
必ず削るという条件ではありません。対象2だけでなく対象1・3の条件も確認し、残したい商品を外さずに申し出られるかを検討します。
Q4. 早期審査を申し出れば登録できますか?
審査が早まっても登録の条件は変わりません。他人の商標との類似などの拒絶理由があれば、対応を検討することになります。
Q5. 相談時に何を用意すればよいですか?
出願予定の名前やロゴ、商品・サービスの一覧、使用状況が分かる写真や販売資料、登録を急ぐ理由をご用意ください。すでに出願済みなら願書の控えもあると、指定を削る必要があるのかを確認できます。
早期審査の条件と権利範囲を併せて確認したい方は、商標の無料調査・ご相談からお問い合わせください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
商標のことでお困りですか?
商標登録の出願・調査・侵害対応について、
弁理士が無料でご相談に応じます。お気軽にお問い合わせください。
ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘

