初めに
特許庁に対する商標登録出願手続の場合、後から変更できる事項と変更できない事項があります。
商標の出願書類の審査合格前と、審査合格後とでは手続が異なる点にも注意しましょう。
目次
(1)申請した商標を間違えた場合は?
(2)申請後に商品やサービスの範囲を変更したい場合は?
(3)権利者名を間違えた場合はどうなる?
(4)住所を間違えてしまった場合は?
(5)商標登録の住所変更は?
(6)結婚して名前が変わったら?
(7)権利者の変更はいつできる?
(8)個人から会社への名義変更はできる?
(9)一人で出願した商標を複数人で共有できる?
(10)二人以上の権利を一人に集約する場合は?
(11)権利が不要になったらどうする?
(12)商標出願中に売却する場合の変更手続きとは?
(13)商標出願中に売却する場合の変更手続きとは?
(1)申請した商標を間違えた場合は?
特許庁では、一度提出した願書に記載された商標の変更は一切認められていません。
これは、学校の試験と同じようなものです。試験が終わった後に答案を書き直すことができないように、商標登録の申請も、提出後に内容を変更することはできません。
では、もし商標を変更したい場合はどうすればよいのでしょうか?
その場合は、新しい商標で改めて出願し直す必要があります。審査中でも、審査に合格した後でも、商標を変更するには新たな申請手続きを特許庁に行うしかありません。
間違いを防ぐためにも、申請前にしっかりと確認することが重要です。
(2)申請後に商品やサービスの範囲を変更したい場合は?
商標登録の際、願書には「指定商品」や「指定役務」(サービス)を記載します。これらは商標権の保護範囲を決める重要な要素で、あらかじめ区分ごとに分類されています。
変更のポイント
✅ 削除は可能:後から不要な商品や役務を削除することはできます。
❌ 追加は不可:最初に願書に記載していなかった商品や役務を後から追加することはできません。
対策のコツ
将来的に必要になる可能性がある商品・役務は、最初の申請時に含めておくのが安全です。
(3)権利者名を間違えた場合はどうなる?
商標登録の権利者名を誤って記入した場合、 「明らかな誤記」 であれば 補正 によって修正できます。しかし、 単なる誤記とは判断できない場合は、補正ではなく名義変更手続きが必要 になります。
補正が可能なケース
例えば、権利者名「東京太郎」を誤って「東京たろう」と記載した場合、この間違いは明らかな誤記とみなされるため、補正が認められます。
補正が認められないケース
一方で、「東京太郎」を「大阪花子」と誤って記載した場合、これは完全に別人の名前であり、単なる誤記とは判断されません。このような場合は補正が認められず、名義変更手続きを行う必要があります。
注意点
たとえ本人が「誤記だった」と主張しても、 第三者が見て明らかに誤記と判断できない限り、補正はできません。 そのため、権利者名を記入する際は慎重に確認しましょう。
なお、名義変更手続きには特許庁への追加費用が発生します。余計なコストを防ぐためにも、申請前にしっかりとチェックすることが重要です。
(4)住所を間違えてしまった場合は?
もし申請書に住所を誤って記入してしまっても、それが単なる「誤記」と判断されれば修正が可能です。
しかし、自分では誤記だと確信していても、第三者が見て誤記と認められない場合は、特許庁での修正が認められません。
その場合、「誤記の修正」ではなく、「正式な住所変更手続き」 を行う必要があります。
✅ ポイント
- 明らかな誤記 → 修正OK
- 誤記と認められない場合 → 住所変更手続きが必要
誤記かどうかの判断は特許庁が行うため、不安な場合は専門家に相談するのがおすすめです。
(5)商標登録の住所変更は?
商標登録を出願した後に、引っ越しなどで住所が変わることがあります。その場合は、特許庁に住所変更の手続きを申請すれば、登録情報を最新の住所に更新できます。
ただし、すでに審査に合格し商標登録が完了している場合は、商標権ごとに個別で住所変更手続きをする必要があります。登録後の住所変更は忘れずに手続きをしましょう!
(6)結婚して名前が変わったら?
結婚により氏名が変わった場合は、特許庁へ変更の届け出を行い、登録内容を最新の状態に更新することができます。
ただし、特許庁での手続きは住民票の氏名変更が完了した後に行う必要があります。
また、氏名の変更手続きには商標の審査中か、すでに商標権が発生した後かによって、提出する書類の形式が異なるため、事前に確認しておきましょう。
(7)権利者の変更はいつできる?
商標の権利者(名義)は、いつでも変更手続きが可能です。ただし、商標が登録される前と後では必要な書類の形式が異なります。
特に、商標登録が完了した後に権利者を変更する場合は、特許庁へ支払う手数料(特許印紙代)が1件につき3万円かかります。
そのため、もし権利者を変更する予定があるなら、商標登録前に手続きを済ませておくのが賢明です。これにより、余計なコストを抑えることができます。
(8)個人から会社への名義変更はできる?
はい、可能です!個人から会社へ、または会社から個人へ商標の名義を変更することは自由に行えます。
注意点:変更には費用がかかる!
ただし、商標権が発生した後に名義変更を行う場合、特許庁への手続き費用として1件あたり3万円の印紙代が必要になります。この点を忘れずに確認しましょう。
(9)一人で出願した商標を複数人で共有できる?
一人で出願した商標登録の出願人名義を、後から複数人に変更することは可能です。
しかし、出願人が複数になると、出願の維持や手続きに関する意見の相違が生じる可能性があります。特に、意見が分かれた場合には調整が難しくなるため注意が必要です。
また、商標権が発生した後は、権利を共有している者全員の同意がなければできない手続きが増えます。そのため、スムーズな運用を考えると、可能な限り単独名義での出願をおすすめします。
(10)二人以上の権利を一人に集約する場合は?
複数の人が持つ商標権を、一人に集約することは可能です。しかし、単に当事者同士で合意するだけでは効力は発生しません。
重要なのは、特許庁へ正式に届け出て登録を完了させること。この手続きを経て初めて、商標権の変更が法的に有効となります。
権利の移転を確実に進めるためにも、特許庁の登録手続きを忘れずに行いましょう。
(11)権利が不要になったらどうする?
商標が 「出願中」 の場合は、特許庁に出願取下げの手続きを行う必要があります。もし取り下げをしないまま放置すると、拒絶査定が確定してしまい、特許庁の登録しない判断に法的に同意したことになってしまいます。
将来的に同じ商標を改めて登録しようとする際に障害となる可能性があります。そのため、不要になったら放置せずに手続きを行うことが重要です。
一方で、すでに商標権が発生している場合は、更新手続きをしなければ 存続期間の満了とともに権利が消滅 します。そのため、 特に手続きをせずに権利を終了させることも可能 です。
ポイント
✅ 出願中の商標は、不要なら取り下げるべき!
✅ 商標権発生後なら、更新しなければ自動的に消滅!
商標の管理を適切に行い、ムダな手続きを防ぎましょう。
(12)商標出願中に売却する場合の変更手続きとは?
商標権が発生する前の審査段階でも、出願人を変更する形で商標を第三者に売却することができます。
価格の決定は自由!
商標の売買価格は、当事者同士の話し合いで自由に決めることが可能です。
いつ売るのがベスト?
審査の結果が出る前に商標を売ることもできますが、審査に合格しなければ商標権は得られません。そのため、買い手にとっては審査の合格を確認してから購入するのが安心です。
商標権発生後の売却には注意!
商標権が発生すると、権利移転の手続きにかかる費用が高くなります。スムーズな売買のためには、タイミングを見極めることが重要です。
(13)商標出願中に売却する場合の変更手続きとは?
商標権を売るにはどうすればいい?
商標権は財産の一種なので、他人に売ることが可能です。売却する際は、「権利移転」という形で手続きを進めます。
いくらで売るべき?
商標権の価格に決まりはありません。売り手と買い手が合意すれば、自由に価格を決めることができます。オークションと同じです。
売買の手続きはどうする?
商標権を売る際は、単なる契約だけでは不十分です。特許庁に「移転登録」の申請を行い、正式に登録されることが必須です。この登録が完了しないと、権利移転は法的に認められませんので、ご注意ください。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247