索 引
1. はじめに
商標権を持っているからといって、自分でしか使えないわけではありません。土地の所有者が駐車場として第三者に貸し出して賃料を得るように、商標権者も第三者に商標の使用を許諾し、ライセンス料を得ることができます。これを「商標ライセンス契約」と呼びます。
ただ、契約と一口に言っても、商標ライセンスには独特の論点があります。使用権の種類、対価の支払方式、ロイヤリティ算定の透明性確保など、契約書に盛り込むべきポイントを誤ると、後々のトラブルにつながりかねません。
以下、基本構造、使用権の3分類、契約書に必須の項目、ロイヤリティ方式、ランニングロイヤリティの実務注意点まで、順に整理します。
2. ライセンス契約とは — 商標を「貸す」「借りる」という関係
商標ライセンス契約とは、商標権を持つ人(ライセンサー)が、商標を使いたい他者(ライセンシー)に対して、その使用を許諾する契約です。
ライセンサー側の利点は、自分で展開していない商品分野や地域からもロイヤリティ収入が入ることです。ライセンシー側の利点は、既に市場で認知されている商標を借りて、自社事業を素早く立ち上げられることです。
商標ライセンスは、商標法第30条(専用使用権)と第31条(通常使用権)に法的根拠を持ちます。契約の自由は広く認められますが、契約の内容次第で第三者対抗力や独占性に差が出るため、次に説明する使用権の種類選びが大きな分かれ目になります。
3. 使用権の3つの種類
商標の使用権は、法律上の位置づけと独占性の有無によって、次の3つに分類されます。
| 種類 | 独占性 | 法的位置づけ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 専用使用権 | あり(絶対的独占) | 商標法第30条 | 特許庁への登録が効力発生要件。設定後はライセンサー自身も使用できない |
| 独占的通常使用権 | あり(契約上の独占) | 商標法第31条 | 特定のライセンシーのみに許諾、特許庁登録は対抗要件 |
| 非独占的通常使用権 | なし | 商標法第31条 | 複数のライセンシーに並行して許諾できる |
専用使用権は、ライセンシーに対してとりわけ強い権利を与えます。ライセンサー自身が同じ範囲で商標を使用することすらできなくなる点には気をつけてください。完全な独占を望むライセンシーには魅力的ですが、ライセンサーは自由度を大きく失います。
独占的通常使用権は、契約上「他者には許諾しない」という約束をライセンサーが負う形です。ライセンサー自身は使用できる場合と禁じられる場合があり、契約書に明記しておきます。
非独占的通常使用権は、最も柔軟な形式です。ライセンサーは複数の相手に並行してライセンスでき、自身も使用できます。ロイヤリティ単価は低くなる傾向にありますが、収益の分散が図れます。
4. ライセンス契約書に盛り込むべき必須項目
契約書を作る際、最低限カバーしておきたい項目を整理します。
契約当事者
契約当事者は、ライセンサー(商標権者)とライセンシー(使用許諾を受ける側)です。ここで意外と見落とされるのが、商標権の所有形態です。
商標権が単独所有なら、ライセンサーだけの判断で契約を結べます。共有商標権の場合、他の共有者全員の同意を取り付けてから契約に進みます。同意なくライセンスしてしまうと、後から差止請求や損害賠償請求を受けるリスクがあります。
また、ライセンシーが関連会社にも使用させたい場合は、「サブライセンス(再許諾)」の可否を契約に明記してください。あるいは、最初から関連会社をライセンシーとして契約当事者に加える方法も検討に値します。
商標の特定
ライセンス対象の商標は、登録番号で特定するのが最も確実です。「○○マーク全般」のような曖昧な書き方は、後に範囲争いの種になります。複数の登録がある場合、対象登録番号を漏れなく列挙します。
使用権の範囲
使用範囲は、地域・期間・指定商品/役務の3つの要素で定めます。
- 地域:日本国内全域、特定都道府県、海外との関係も含めて明示
- 期間:契約発効日と終了日、自動更新の有無、解約条件
- 指定商品/役務:登録商標の指定区分のうち、どの範囲を許諾するか
「商標権の指定範囲すべて」とせず、ライセンシーが実際に使う商品・役務に絞ることで、ライセンサー側は他の分野で別のライセンス契約を結ぶ余地を残せます。
対価条項
対価の方式と算定基準は次のH2で詳しく扱いますが、契約書には支払金額・支払時期・支払方法を必ず書き入れます。
5. ライセンス対価(ロイヤリティ)の3つの方式
ライセンス料の支払方式は、大きく3つに分かれます。
一括払い方式
契約締結時に、合意した金額を一括で支払う方式です。ライセンサーは確実に収入を得られ、ライセンシーは将来の売上に左右されず予算管理がしやすいメリットがあります。
ただし、ライセンシーが商標を活用して大きな売上を上げても、ライセンサーは追加収入を得られません。短期ライセンスや、ライセンシーの事業規模が予測しにくい局面で選ばれることが多い方式です。
ランニングロイヤリティ方式
ライセンシーの売上や利用実績に応じて、継続的にロイヤリティを支払う方式です。一般的には売上高の数%(業界によって幅があり、ブランド力の強い商標では二桁%になることもあります)を基準にします。
ライセンサーはライセンシーの成長と連動した収入を期待でき、ライセンシーは初期負担を抑えてスタートできます。一方、ライセンシーから定期的に売上報告を受ける仕組みが必要で、後述する実務的な注意点が伴います。
イニシャルペイメント+ランニングロイヤリティ方式
契約締結時に一定額(イニシャルペイメント)を支払い、その後の売上に応じてランニングロイヤリティを支払う組み合わせ方式です。
ライセンサーは契約直後にもまとまった収入を得つつ、長期的な売上連動の収益も確保できます。実務上、最も採用されることが多いハイブリッド型です。
なお、ロイヤリティ料率には法定の決まりがなく、ライセンサー・ライセンシー双方の事業状況、ブランド価値、市場規模、競合状況などを見て交渉で決まります。
6. ランニングロイヤリティ採用時の実務的注意点
ランニングロイヤリティ方式またはハイブリッド方式を採用するときは、売上算定の透明性をどう確保するかが最大の論点になります。
帳簿の作成義務を契約に明記する
ライセンシーに対し、ライセンス対象商品・役務の売上データや会計記録をきちんと管理・作成する義務を契約書に盛り込みます。具体的には、月次または四半期ごとの売上集計を所定の様式で報告するよう求めるのが一般的です。
帳簿の保存期間も合わせて定めます。日本の会計実務では7年保存が標準ですが、契約終了後も一定期間(例:契約終了後3年)は帳簿閲覧を可能とする条項を入れることが多くなっています。
監査権を確保する
ライセンシーの売上報告が常に正確とは限りません。意図的な過少報告だけでなく、システム上の集計ミスや会計区分の取り違えで報告が実態とずれることもあります。
そのため、ライセンサー自身、または公認会計士などの第三者がライセンシーの帳簿を監査できる「監査権」条項を契約に含めるのが定石です。監査の頻度(年1回など)、費用負担(通常はライセンサー負担、ただし重大な過少報告が発覚した場合はライセンシー負担)、監査結果に基づく追徴ルールまで定めておくと、運用が滞りなく進みます。
売上算定基準の明確化
「売上」と一口にいっても、グロス売上・ネット売上・出荷ベース・受注ベース、返品や値引きの扱いなど、論点は多岐にわたります。契約書では算定基準を一義的に決めておきます。後から「想定していた基準と違う」というトラブルは、実務上もっとも多い揉め事の典型です。
7. 商標ライセンス契約に関するよくある質問
Q. 専用使用権と通常使用権、どちらを選ぶべきですか?
A. ライセンシーが完全な独占を望み、かつライセンサー自身も使用しないのであれば専用使用権、ライセンサーが自社使用を続けたい場合や、複数の相手にライセンスする可能性を残したいなら通常使用権が向いています。専用使用権は特許庁への登録が効力発生要件である点も判断材料です。
Q. ライセンス契約は特許庁への登録が要りますか?
A. 専用使用権は特許庁への登録が効力発生要件で、登録しなければ専用使用権としての効力が生じません。通常使用権は登録なしでも有効ですが、第三者対抗要件として登録できます。第三者に商標権が譲渡された場合に新権利者に対しても自分のライセンスを主張したいなら、通常使用権でも登録しておくのが安全です。
Q. ロイヤリティの相場はどのくらいですか?
A. 業界やブランド力によって大きく異なり、一律の相場はありません。一般消費財ブランドでは売上の3-7%が一つの目安、グローバル著名ブランドでは10%超になることもあります。商品単価、競合状況、契約期間、独占性の有無を総合して交渉します。
Q. ライセンス契約期間中に商標権が消滅したらどうなりますか?
A. 商標権が更新されなかったり、不使用取消審判で取り消されたりすると、ライセンスの基礎が失われます。契約書に「商標権の消滅時は契約終了」「以後のロイヤリティ支払義務は発生しない」「既支払分の返還は求めない」といった条項をあらかじめ入れておくことが推奨されます。
Q. 海外でのライセンス展開はどう進めればよいですか?
A. 各国で商標を出願・登録したうえで、現地法に準拠したライセンス契約を結びます。マドリッド協定議定書(マドプロ)で複数国の登録を効率化したあと、国別にライセンスする形が一般的です。準拠法・合意管轄・税務(源泉徴収)の論点が増えるため、国内ライセンスと同じ感覚で進めるとリスクが高くなります。
8. 商標ライセンス契約のご相談はファーイースト国際特許事務所へ
商標ライセンス契約は、テンプレートだけで成立する単純な書類ではありません。使用権の種類選び、対価方式の設計、監査権の運用ルール、サブライセンスや商標権消滅時の取り扱いまで、ビジネスの実態に合わせた条項設計が成果を左右します。
ファーイースト国際特許事務所では、実務10年以上の弁護士・弁理士が、ライセンサー・ライセンシー双方の立場でご相談を承っています。新規契約のドラフト作成、既存契約のリスク診断、商標権登録との連動、海外展開時の準拠法判断まで一気通貫でサポートします。
- ライセンス契約のご相談はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ
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ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
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