索 引
「どん兵衛」と「サッポロ一番」は、どちらも長く親しまれてきた即席麺のブランドです。この2つのブランドを持つ会社同士が、裁判で争っていたことをご存知でしょうか。
争われたのは商品名ではなく、麺の製造技術に関する特許権でした。この記事では、その裁判を手がかりに、特許権と商標権が何を守る権利なのか、侵害の判断はどこが違うのか、権利の期間や取得の要件はどう異なるのかをご紹介します。
1. 「どん兵衛」と「サッポロ一番」の裁判で争われたもの
日清食品ホールディングス(「どん兵衛」)が、サンヨー食品(「サッポロ一番」)を特許権の侵害で訴えた事件です。舞台は大阪地方裁判所でした。
争点となったのは、「食べるときに麺が真っすぐになる」という即席麺の製造技術です。日清食品側がこの技術について特許権を持っており、サンヨー食品の製品もその技術を使っているとして訴訟に発展しました。
最終的に両社は和解に至っています。このニュースは2015年1月21日に、日本経済新聞などで報じられました。
ここで注目したいのは、「どん兵衛」と「サッポロ一番」という商品名は似ても似つかないのに、裁判になったという点です。商品名が違っていても争いになるのは、特許権が守っているものが名前ではなく技術だからです。
2. 特許権と商標権は守る対象が違う
特許権は、発明、つまり技術的なアイデアを守る権利です。特許権者は、業として特許発明を実施する権利を専有します(特許法68条)。麺をどのような工程で作るかという製造方法や、その方法で作られた製品の構造が保護の対象になります。
商標権は、商品やサービスの目印を守る権利です。商標権者は、指定商品・指定役務について登録商標を使用する権利を専有し(商標法25条)、類似する範囲での他人の使用を排除できます(同37条)。「どん兵衛」「サッポロ一番」という名前やロゴは、こちらの権利で守られます。
言い換えると、特許は商品の「中身」に、商標は商品の「名前」に関する権利です。製品の名前が「どん兵衛」と全く違っていても、中身の技術が日清食品の特許発明の範囲に入っていれば、特許権の侵害になる可能性があります。
逆に、商標権の侵害は名前やマークの側で判断します。中身が同じ即席麺でも、商標が似ていなければ商標権の侵害にはなりません。ただし、名前を変えれば何をしてもよいわけではありません。特許発明を無断で使えば特許権の問題が残りますし、パッケージや容器の形をそっくりに真似た場合は、商標権とは別に不正競争防止法(2条1項1号、3号)の問題になることがあります。
3. 侵害かどうかはどこを見て判断するのか
特許権の侵害判断
特許権の侵害は、相手の製品や製造方法が、特許請求の範囲に書かれた発明の技術的範囲に属するかどうかで判断します(特許法70条)。判断のためには、相手の製品を分解したり成分や構造を分析したりして、特許発明の構成要件をすべて満たしているかを一つずつ確かめなければなりません。
今回のような製造方法の特許では、相手の工場でどのような工程が使われているかを外から確認しにくいため、立証には手間がかかります。特許権は技術そのものを押さえられる分、侵害の有無を見極めるのは簡単ではありません。
商標権の侵害判断
商標権の侵害は、登録商標と同一または類似の商標を、指定商品・指定役務と同一または類似の商品・役務に使用しているかで判断します。商標が似ているかどうかは、見た目(外観)、読み方(称呼)、意味合い(観念)を総合し、取引の実情も踏まえて判断されます。
製品の中身を分析しなくても、市場に出ている名前やマークを見比べれば検討を始められるため、特許権の侵害に比べると判断の入口は分かりやすいといえます。ただし、似ているかどうかの線引きは事案ごとに異なり、専門家でも意見が分かれることがあります。
4. 権利の期間と取得の要件
権利の期間
| 権利 | 存続期間 | 更新 |
|---|---|---|
| 特許権 | 出願日から20年(特許法67条1項) | 更新の制度はない(医薬品などに限り延長登録あり) |
| 商標権 | 設定登録の日から10年(商標法19条1項) | 10年ごとに何度でも更新できる(同19条2項) |
特許権は期間が満了すると誰でもその技術を使えるようになります。商標権は使い続ける限り更新でき、長く育てたブランドをそのまま守り続けられます。
取得の要件
特許を受けるには、発明が産業上利用できること、出願前に知られていないこと(新規性)、その分野の技術者が容易に思いつけないこと(進歩性)が要件になります(特許法29条)。同じ発明について複数の出願があれば、先に出願した人だけが特許を受けられます(同39条)。
商標を登録するには、自社の商品・役務と他社のものを区別できる目印であること(商標法3条)、他人の登録商標と同一・類似でないことなどの不登録事由に当たらないこと(同4条)が要件です。こちらも先願主義で、同じ商標について複数の出願があれば先の出願が優先します(同8条)。
商標は出願前に実際に使っている必要はなく、自社の業務で使う意思があれば出願できます。一方で、登録後に3年以上使わない指定商品・指定役務があると、不使用取消審判(同50条)で取り消される対象になります。この審判は商品・役務ごとに判断されるため、使っている商品・役務の権利まで失われるわけではありません。
新規性や進歩性を審査される特許に比べると、商標は要件の性質が異なり、登録までの道筋を描きやすい場面が多くあります。ただし、先願主義である以上、よい名前ほど先に押さえられやすい点は変わりません。名前が決まったら早めに出願を検討するのが基本です。
5. 事業ではどちらの権利が必要か
「特許と商標、どちらを取ればよいのか」というご質問をよく受けます。守りたいものが技術なのか名前なのかで答えは決まります。両方に守るべきものがあるなら、両方の権利を検討します。
今回の裁判のように、製造技術に特許があれば、名前を変えて参入してきた競合に対しても技術面から対抗できます。一方、名前やロゴに商標権があれば、長年の使用で積み上がったブランドの信用を、期限なく守り続けられます。特許で技術を、商標で名前を守るという組み合わせが、製品ビジネスの基本形です。
特許を取るほどの技術がない事業でも、商品名やサービス名は必ずあります。名前を守る商標登録は、技術の有無にかかわらず、ほとんどの事業で検討の対象になります。
6. よくある質問
Q1. 特許と商標は何が違うのですか?
守る対象が違います。特許は技術的なアイデア(発明)を守る権利で、商標は商品・サービスの名前やロゴなどの目印を守る権利です。
Q2. 名前を変えれば商標権の侵害は避けられますか?
商標が似ていなければ商標権の侵害にはなりません。ただし、技術を無断で使えば特許権の問題が残りますし、パッケージや周知の表示を真似れば不正競争防止法の問題になることがあります。
Q3. アプリ開発では特許と商標のどちらを取るべきですか?
独自の処理や仕組みがあれば特許を、アプリ名やロゴを守りたいなら商標を検討します。両方に守るものがあれば両方です。技術の特許性は個別の判断になるため、まず内容を弁理士に相談してください。
Q4. 特許と商標の有効期限はどのくらいですか?
特許権は出願日から20年で、更新はできません。商標権は設定登録の日から10年で、10年ごとに何度でも更新できます。
Q5. 商標登録をすれば、似た名前も使わせないようにできますか?
指定商品・指定役務と同一・類似の範囲であれば、類似する商標の使用も差し止められます(商標法36条、37条)。似ているかどうかは外観・称呼・観念を総合して判断されるため、個別の事案ごとに検討することになります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
商標のことでお困りですか?
商標登録の出願・調査・侵害対応について、
弁理士が無料でご相談に応じます。お気軽にお問い合わせください。
ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘
