1. 冒認出願とは何か
冒認出願とは、本来の権利者でない第三者が、他人の商標を先に出願する行為です。いわば「商標の横取り」です。
日本の商標法は先願主義を採用しています。つまり、先に出願した者が権利を取得します。実際に商標を使っているかどうかは、原則として問いません。
この制度を悪用し、他人が使っている商標を先に出願して権利を確保しようとする者がいます。これが冒認出願です。
冒認出願は日本国内でも起きますが、特に問題になるのは海外、とりわけ中国をはじめとするアジア圏での横取り出願です。
2. 冒認出願の代表的な事例
国内外で多数の事例が報告されています。
海外での日本ブランド横取り
中国では、日本の有名ブランド、地名、アニメキャラクターが無断で商標登録される事例が後を絶ちません。
「クレヨンしんちゃん」の中国語表記が無関係の中国企業に登録され、本家が「偽物」扱いされた事例は、冒認出願の深刻さを示す代表例です。
日本の中小企業も例外ではありません。海外展開を始めた途端に、現地の代理店や取引先が自社名で商標を登録していた、というケースがあります。
国内での横取り出願
日本国内でも冒認出願は起きます。
元従業員が退職後に会社のブランド名を自分名義で出願するケース。フランチャイズの加盟店が本部の商標を先に出願するケース。取引先が商品名を自社名義で登録してしまうケース。
いずれも、信頼関係のある間柄で起きるため、発覚が遅れがちです。
一般語の独占を狙う出願
特定の業界で広く使われている一般的な名称を商標登録し、同業者に使用料を請求したり、使用の中止を求めたりする行為もあります。
近年では、ゲーム業界で一般的な英単語の組み合わせを商標登録し、同ジャンルの作品に改名を迫る「商標トロール」が問題になりました。
3. 冒認出願をされたときの対処法
商標が横取りされた場合、いくつかの法的手段があります。ただし、いずれも時間と費用がかかります。出願で先手を打つ方が、対処するより圧倒的に安上がりです。
異議申立(商標公報発行後2か月以内)
相手の商標が登録された場合、登録の公報発行から2か月以内に異議申立ができます。
異議申立は、その商標登録が商標法の要件を満たしていない(例えば、周知な商標と類似している等)ことを主張するものです。
ただし、期限が2か月と短いため、相手の登録を見逃すと使えない手段です。商標の公報を定期的に監視する体制が必要です。
無効審判
登録から一定期間内であれば、無効審判を請求できます。
無効審判では、その商標登録が本来認められるべきではなかったことを証拠とともに主張します。冒認出願の場合、「その商標は本来あなたのものではない」ことを示す証拠が鍵になります。
無効審判は専門性の高い手続きです。証拠の収集、主張の組み立て、特許庁での審理対応など、経験ある弁理士なしでは難しい領域です。
先使用権の主張
自分がその商標を相手の出願前から使用しており、一定の知名度を得ていた場合、先使用権を主張できる余地があります。
ただし、先使用権が認められるためのハードルは高い。「周知性」の立証が必要であり、地域的・業界的に広く知られていることを証明しなければなりません。
「うちの方が先に使っていた」だけでは足りません。先使用権に頼るのは最後の手段です。出願していれば、そもそもこの議論は不要です。
交渉・譲渡請求
冒認出願者に対して、商標権の譲渡を交渉することも選択肢です。ただし、相手が応じる義務はありません。高額な譲渡料を要求されるケースもあります。
4. 冒認出願を防ぐための事前対策
冒認出願への対策は、結局「先に出願する」ことに尽きます。横取りされてからの対処は、時間も費用もかかります。
早期出願
ブランド名、商品名、会社名が決まった段階で、できるだけ早く出願してください。
「まだ事業を始めていないから早い」と思うかもしれません。しかし、商標は事業開始前でも出願できます。事業を始めてからでは遅い場合があります。
海外展開前のマドプロ出願
海外に事業を展開する計画があるなら、展開前にマドプロ(マドリッド協定議定書)を使った国際出願を検討してください。
日本の出願を基礎にして、複数の国に一括で出願できます。各国で個別に出願するより費用を抑えられます。
海外で商標を横取りされてからでは、その国での対処に多大な費用と時間がかかります。予防の方が圧倒的に効率的です。
商標ウォッチング
自社の商標に類似する出願がないか、定期的に監視する体制も有効です。
特許庁の公報を定期的にチェックし、類似商標が出願・登録されていないか確認します。早期に発見できれば、異議申立の期限内に対応できます。
取引先・従業員との契約上の手当て
信頼関係のある相手からの冒認出願を防ぐには、契約で手当てしておくことが有効です。
秘密保持契約、競業避止契約、知的財産の帰属に関する条項。こうした契約書の整備が、冒認出願の抑止力になります。
5. まとめ:「まだ早い」が一番危険
冒認出願への対処は、専門性が求められる領域です。AIの自動処理では判断できません。
横取りされてから対処するより、先に出願する方が、はるかに安く、確実です。
「まだ早い」「まだ事業が小さいから」。そう思っている間に、商標は横取りされます。
先願主義の日本では、出願は早い者勝ちです。先手を打ってください。
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ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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