ヤクルト容器の立体商標登録、形状は守れる?ユニークなデザインと機能の秘密

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(1)ヤクルトの容器の特徴

ヤクルトのプラスチック容器の登場

1968年、それまでガラス瓶が使われていたヤクルトの容器が、画期的なプラスチック製に変更されました。

この容器は、軽くて割れないというプラスチックの利点を生かし、大量生産が可能で回収不要な「ワンウェイ容器」として人気を集めました。

容器デザインの由来:「こけし」のエッセンス

ヤクルトの容器デザインを手がけたのはインテリアデザイナーの剣持勇氏。その発想源は日本の「こけし」から来ており、この形状は現在も多くの人に親しまれ、グッドデザイン賞のロングライフデザイン賞も受賞しています。

くびれのある形状が生む満足感

ヤクルトの容器には特徴的なくびれが施されています。中身が少なくても、一気に飲み切れないように調整されており、数回に分けて飲むことで「飲みごたえ」を感じられる設計になっています。

軽量で割れにくいプラスチックの利点

ガラス瓶から切り替わったプラスチック容器は軽量で、輸送が簡単。落としても割れにくいので、家庭や流通において安全かつ扱いやすいとされています。また、海外でもこの形状のまま販売され、立体商標として登録されています。

(2)立体商標の商標登録の背景

2Dから3Dへの商標保護の進化

以前は、商標として登録できるのは文字や図形などの平面デザインのみでした。

しかし、特定の商品を形状で識別するケースも多く、立体物に対する商標保護のニーズが高まっていました。そこで1996年の法改正により、立体物も商標登録が可能になり、日本でも立体商標制度が導入されました。

国際基準に合わせた商標法の改正

日本の立体商標制度は、不正競争防止法を利用して部分的に保護されてきた背景があり、同時に海外では立体商標が既に認められている国もありました。

この国際的な流れに合わせ、日本も立体商標の明確な保護基準を制定しました。これにより、特定の商品形状が商標登録で保護され、企業にとって独自の形状がブランド資産として守られるようになりました。

立体商標登録の条件

条件1:商品性質から生じる形状のみの立体商標は不可

商品の機能や性質から生じる形状(例えば、ペットボトルの基本形状など)は登録が認められません。形状がその商品特有のデザインではなく、汎用的なものであれば、他社と区別する「識別力」がないとみなされるためです。

条件2:一般的・ありふれた形状は不可

「通常よくある」形状は商標登録できません。例えば、シンプルな円柱形の容器など、多くの企業が使う形状は独占できないため、登録の対象外とされます。

条件3:機能的に必要な形状のみの立体商標は不可

商品の機能を実現するために不可欠な形状も登録不可です。タイヤやナットのように、その形状が製品の機能上必要である場合、独占すると自由競争が制限されてしまうため、商標保護の対象から除外されます。

商標権の持続性とそのリスク

商標権は、更新さえ行えば半永久的に保護されるため、機能に不可欠な形状を独占すると、他社が製品を作れなくなり、競争を阻害するリスクが生じます。したがって、こうした形状については登録が制限されています。

(3)容器を巡る商標裁判の行方:ヤクルトの挑戦

第一回戦:立体商標の登録申請でヤクルト敗退

ヤクルトの容器

1997年、ヤクルトはそのプラスチック容器について立体商標登録を出願しましたが、審査で不合格となり、拒絶決定を受けました。

この結果を不服としたヤクルトは、審判で争い、さらには東京高裁での審決取消訴訟も起こしましたが、最終的に認められませんでした。

この経緯について日本経済新聞は、「ヤクルトは最高裁まで争ったが、認められなかった」と報じています(2010/11/16付日本経済新聞)。

敗北の理由:自他商品識別力の欠如

ヤクルトの立体商標が認められなかった理由には「自他商品識別力の欠如」がありました。自他商品識別力とは、ある形状やデザインが他社の商品と明確に区別できる力を指します。具体的には、その形状やデザインを見ただけで、消費者が「これは特定のブランドの製品だ」と認識できることが求められます。

しかし、ヤクルトの容器には「ヤクルト」の文字やロゴがなく、形状のみではその商品がヤクルトのものであると判別できないと判断されました。そのため、商標登録の基準である自他商品識別力を満たさないとされ、不合格という結論に至ったのです。

当時の商標登録では「誰の商品かを一目で判別できる」という識別力が必要であることが、裁判での判断を左右しました。

ヤクルトの容器にはロゴがないと商標登録が難しいという当時の判断が大きなハードルとなりました。

商標登録に不可欠だった「ロゴ」

当時の特許庁の審査基準では、立体商標である容器デザインにはロゴなどの文字情報が必須で、これがないと自社商品かどうかの識別力が不十分とされ、商標登録が認められませんでした。

ヤクルトもこの基準の影響を受け、ロゴなしの容器デザインだけでは不合格となったのです。

ヤクルト側の再挑戦

ヤクルトは、2008年に再度プラスチック製容器の立体商標を出願しました。

この再出願の背景には、知財高裁がロゴなしのコカ・コーラ瓶の立体商標登録を認めた判例がありました。ヤクルト側は「コカ・コーラが認められるなら、ヤクルトも認められるべきだ」との主張でリベンジに挑んだのです。

リベンジ戦の結果:ついに立体商標が認められる

特許庁での再審査と拒絶

ヤクルトは2008年の再出願で再び立体商標登録を試みましたが、特許庁での審査で拒絶され、さらに不服申立ても拒絶審決となりました。ここでも「ロゴなしの容器形状のみでは識別力が不十分」と判断されたのです。

知財高裁の逆転判決

ヤクルトは特許庁の審決取消を求めて知財高裁に訴え、2010年11月、ついに勝訴を勝ち取りました。

知財高裁は、特許庁の審決が「商標法の適用を誤っている」とし、文字情報がなくてもヤクルトの容器形状は識別力があると判断しました。この判決により、ヤクルトのプラスチック製容器は、文字情報なしでも立体商標として登録が認められることになったのです。

平成20年9月3日付けでなされた本願商標につき商標法3条2項の適用を否定した審決は誤りであることになるから,審決は違法として取り消しを免れない。

知財高裁平成22(行ケ)10169 審決取消請求事件 商標権行政訴訟

こうして、ヤクルトのロゴなしの容器が立体商標として正式に保護され、独自のデザインを商標として守る道が開かれました。

知財高裁の判決内容:ヤクルト容器が立体商標として認められた理由

判決の骨子

知財高裁は、「ヤクルトの容器形状が長年の使用によって識別力を獲得している」と判断し、商標法第3条第2項の救済規定を適用。これにより、文字情報なしでもヤクルトの容器が立体商標として登録されるべきだと結論づけました。

背景と判決の理由

ヤクルト容器は1968年の発売以来、形状を変えずに販売され続け、消費者の間に「ヤクルト=この形状」という認識が根付いています。ヤクルトは巨額の広告費をかけて市場シェアを築き、この容器形状が同種製品の中で際立つものとして消費者に認識されてきました。

さらに、裁判では、ヤクルトの容器をロゴなしで見せた際、消費者の98%以上が「ヤクルトを連想する」と回答したアンケート調査結果も有力な証拠となりました。加えて、形状が似た商品が「ヤクルトのそっくりさん」として認識されている実情も判決に影響を与えました。

国内2例目の登録事例

文字情報なしの立体商標登録は、コカ・コーラ瓶に続く国内2番目の事例となり、ヤクルトの容器も長年の使用を通じて得た「形状のみの識別力」が評価された形です。

この判決により、ヤクルトの容器形状が立体商標として正式に保護されることが認められ、形状のみでブランドを象徴することが可能になりました。

(4)ヤクルトの立体商標問題が残した課題

文字情報なしの立体商標の難しさ

今回、ヤクルトの容器が文字情報なしで立体商標として認められたことは特異なケースです。

通常、ロゴや文字情報が付いていれば、立体商標の登録は比較的簡単に認められますが、文字情報がない形状のみでの商標登録には高いハードルがあります。

特許庁が登録を渋った理由

ヤクルトの容器は、実際には「ヤクルト」という文字が印刷された状態で市場に出回っていました。

このため、特許庁は「文字情報付きで流通している容器を、文字なしで商標登録するのは不適切」と判断し、登録を拒み続けました。特許庁の観点では、文字情報がないと消費者が識別しにくいと判断されたのです。

知財高裁の判断:形状そのものの識別力

しかし、知財高裁は「実際に流通している商品の形状そのものが消費者に広く認識され、識別力を持つに至った場合、商標として保護される利益がある」と判断しました。

つまり、文字情報が付いていなくても、長年にわたって消費者に強く認知された形状であれば、保護すべき価値があるという見解です。

この判決は、文字情報がない商品形状でも識別力を獲得すれば商標登録が可能だという新たな基準を示しました。今後も、他企業がこのケースを参考に、形状のみの商標登録を目指す動きが出る可能性があります。

類似品排除による市場混乱のリスクと解決の方向性

登録に対する懸念:類似品排除での混乱

ヤクルトの立体商標が登録されたことで、「これまでヤクルトに似た容器を使用していた他社製品が突然使えなくなるのでは?」という懸念が生じています。

特に、これまでヤクルトが類似品に対して大きな対応を取ってこなかったことから、突如として類似品が排除されれば市場の混乱を招く可能性があります。

商標法第3条第2項の例外規定に基づく厳格な解釈の必要性

今回のヤクルトの立体商標登録は、商標法第3条第2項に基づく例外措置で、通常なら認められない商標登録を特例的に許可するものです。

このような特例に基づく商標権については、権利行使の範囲を厳格に解釈することが求められるでしょう。

例えば、侵害判断の基準となる「類似範囲」を狭く限定することで、これまで併存していた類似品の排除を最小限に抑え、市場の混乱を防ぐ配慮が必要です。

今後の方向性:調整と社会的影響の考慮

今後、ヤクルトの立体商標に関する権利行使は、社会的影響を考慮しつつ進めるのがよいと考えます。

類似品を市場から一掃するのではなく、消費者に混乱が生じないように適切な調整を行うことで、ヤクルトのブランドを保護しつつ、公正な競争を維持することが可能になるでしょう。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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