1.ウイスキー「山崎」の瓶に安物入れて質入れで逮捕
ウイスキーの高級ブランド瓶に安価な酒を入れ替えて売ったり質入れしたりすると、商標法違反で逮捕される可能性があります。実際に、以下のような事例が報道されました。
事例1:ウイスキー「山崎」の瓶に安酒を入れて質入れ → 逮捕
2024年7月2日の読売新聞によると、つくば市内の質店で「山崎」などの高級ウイスキーを装った偽造品3本を質入れし、従業員から現金をだまし取った疑いでアルバイト従業員の男が逮捕されたことが報道されています。
商標権を持つサントリーなどの許可を受けずに、偽造されたブランド名を表示した商品を売買すると商標法に触れる可能性があるため、逮捕に至るケースがあるのです。
事例2:フリマアプリで響30年の偽ボトルを販売 → 商標権侵害で逮捕
2018年8月21日の日本経済新聞によると、フリマアプリを通じて「響30年」の偽物5本を販売した結果、サントリーホールディングス(HD)の商標権を侵害したとして逮捕された事例も報道されています。
なぜ「空瓶の再利用」が商標法違反につながるのか?
1. 商標法の基本原則
登録商標を勝手に使うと、商標権者の許可がない限り法に抵触します。特にブランドの知名度や品質イメージを利用する行為は重大視されます。
2. 正規品と偽物の混同
本来の中身と異なる製品を、元のブランド名を付けた状態(=ラベルや瓶に表示が残っている)で販売すると、消費者が「正規品」と誤解する可能性があります。これが商標法違反の大きなポイントです。
3. 損害・信用失墜のリスク
ブランド側は、粗悪品が出回ることで消費者からの信頼を損ない、結果的に企業イメージや売上にダメージを受ける恐れがあります。そのため厳しく取り締まられるのです。
もし逮捕されたら? 想定されるペナルティ
- 刑事罰: 最悪の場合、懲役刑や罰金が科される可能性があります
- 民事責任: 商標権者や消費者への損害賠償請求を受けることも考えられます
商標法では、商標権の侵害者には懲役最高10年、罰金最高1000万円、法人の場合の罰金は最高3億円が規定されています。
ここがポイント
空瓶を使って別の中身を入れた時点でアウト
高級ブランドの空瓶に別の安価なウイスキーを詰めて「○○年もの」として販売すれば、ほぼ確実に商標法違反になります。
正式なライセンスや許諾を得る
商標権の使用には権利者の許諾が必要です。個人レベルで偽造や詰め替え行為は、まず許可されません。
手軽な小遣い稼ぎでも危険
「どうせ少量だしバレないだろう」という気持ちで偽物を出品すると、警察沙汰や多額の賠償請求に発展し、取り返しのつかない事態を招きます。
商標はブランドの顔です。空瓶の再利用でブランド名を不正使用することは明確に違法となり、重い処罰が科される可能性があります。「少しぐらい大丈夫」と安易に考えず、正規品の販売やライセンスの取得に努めることが大切です。
2.なぜ、ウイスキーの中身を詰め替えると商標権侵害になるのか?
ウイスキーの空瓶に別の中身を詰め替えて販売する行為は、商標法違反として逮捕されるリスクがあります。
これには「商標の機能」が大きく関わってきます。
商標はただの名前やロゴではなく、商品やサービスの“顔”となる大切な役割を担っているのです。
以下では、ウイスキー「響」を例に、商標の4つの基本機能をわかりやすくご紹介します。
1. 自他商品等識別機能
同業者が提供する他社製品の中から、自社の商品を区別できる機能です。
もし世の中のウイスキーがすべて同じボトルで、何のラベルも貼っていなければ、誰が作ったのかまったくわからず、買う側も困ってしまいますよね。
そこに「響」というラベルが貼られていれば、「これはサントリーのウイスキーだ!」とすぐに識別できます。
中身の詰め替えが問題になる理由
本来の「響」とは異なるウイスキーを、「響」というラベルのまま販売してしまうと、消費者は“本物の響”と誤解してしまいます。これが自他商品識別機能の妨害となり、商標法に抵触する恐れがあります。
2. 出所表示機能
「誰が作った商品なのか」「どこが提供しているサービスなのか」を示す機能です。
「響」と表示のあるウイスキーなら、サントリーが製造・供給している商品であることがわかります。
中身の詰め替えが問題になる理由
安価なウイスキーに詰め替えたものを「響」として売ると、出所(製造元)が本当は別なのに、あたかもサントリー製だと装ってしまいます。これは出所表示機能の混乱を引き起こす行為で、商標権侵害の大きな要素です。
3. 品質保証機能
同じ商標が付いている商品なら、一定の品質が保たれているだろうという安心感を消費者に与える機能です。
「響」のラベルが付いたボトルを買う人は、「サントリーが適切に品質管理しているウイスキーだから安心」と思って購入します。
中身の詰め替えが問題になる理由
ボトルの外見は「響」と変わらなくても、中身がまったく違うウイスキーであれば、期待する品質が保証されません。
これにより消費者が「響は質が下がった?」と誤解し、ブランドの信用を損なう可能性があります。
4. 宣伝広告機能
商標そのものが宣伝の役割を担い、商品やサービスの魅力を広める機能です。
たとえば「響がすごく美味しかったから、友達にも響を薦めたい」という形で、ブランド名そのものが広告的役割を果たします。
中身の詰め替えが問題になる理由
偽物の「響」を飲んだ消費者が「何だか微妙だった」と感じれば、そのまま友達に悪いイメージが伝わるかもしれません。
結果として本物の響の評判まで傷つけ、宣伝広告機能を台無しにしてしまうのです。
中身の詰め替え=商標機能への“ダメージ”
上記4つの機能のいずれかが妨害されると、商標権侵害に該当する恐れがあります。
特に「高級ウイスキーの空瓶に安酒を入れて販売する」といった行為は、本物のブランドイメージや消費者の信頼を大きく損ねるため、法的にも厳しく取り締まられる対象となるのです。
ここがポイント
- 自他商品等識別機能:買う人が「どのウイスキーか」正しくわかるようにする機能
- 出所表示機能:作り手がどこかを示す機能
- 品質保証機能:同じ商標なら一定の品質が担保されるという信頼感
- 宣伝広告機能:商標そのものが広告となり、口コミなどで広まっていく機能
「空瓶に別のお酒を詰めて売るなんて、ちょっとした悪ふざけでしょ?」と思うかもしれませんが、それは重大な商標法違反です。
ブランドの顔である商標を勝手に利用する行為は、企業のイメージを傷つけるだけでなく、あなた自身が逮捕や高額な損害賠償のリスクにさらされます。
3.中身が本物でも商標権侵害になるのはなぜ?
「空瓶に安物のお酒を入れて販売したならたら詐欺罪になるのは理解できるけど、なぜ商標権も侵害するの?」と疑問に思う方は多いでしょう。
さらに「中身が本物ならなおさら違法にはならないんじゃないの?」と考える人もいるかもしれません。
ところが実際は、中身が正規品であっても、無断で商標を付して販売すれば商標権を侵害する可能性があるのです。
実際に起こった事例:STP事件・マグアンプK事件・ハイミー事件
STP事件(大阪地裁昭和51年(ヨ)第2469号)
大容量で売られていた正規品を購入し、小分けしたうえで「STP」という登録商標に似た表示を勝手に使った行為が問題になりました。
マグアンプK事件(大阪地裁平成4年(ワ)第11250号)
こちらも中身が正規品だったにもかかわらず、勝手に小分けして登録商標に似た表示をしたことで、商標権侵害と判断されました。
ハイミー事件(最高裁昭和44年(あ)第2117号)
一度回収した正規品(未使用)を、登録商標に似たマークを印刷した段ボールに入れて再び販売しようとした事案。中身が未開封の本物でも、正当な権限なく商標を使えばアウトという結論でした。
これらの裁判例では、「中身が本物かどうか」は決定打になりませんでした。 むしろ重要視されたのは「商標の機能」を守るという点です。
商標の4つの機能と「中身が本物」でも違反になる理由
上記に説明しましたが、商標には以下の4つの基本的な機能があります。
1. 自他商品等識別機能
誰が作った商品なのか、どの会社が提供するサービスなのかを区別するための機能です。
2. 出所表示機能
「この商品はあの会社(ブランド)が作っているんだ」と分かる機能です。
3. 品質保証機能
消費者が「同じ商標なら、ある程度の品質が保たれているはず」と安心できる機能です。
4. 宣伝広告機能
ブランド名自体が広告となり、消費者にアピールする機能です。
「勝手に商標を使う」=これらの機能を損なうリスク
正規品であっても、勝手に小分けして売る行為
メーカーが想定していない形態や状態で流通させることで、消費者が本来の品質管理を受けている商品だと誤認する恐れがあります。
勝手に類似の商標を付して売る行為
「自他商品識別機能」「出所表示機能」を乱し、ブランドイメージや品質保証機能を損なう可能性が高い。
たとえばウイスキーを小分け販売する場合、本来はメーカーがどのようにボトリングし、ラベルを貼り、品質管理を行っているかは大きなポイントです。
無断でこれを行えば、メーカーが意図しない形で商標が使用され、消費者に混乱を与えるとみなされ、結果的に商標権侵害となり得るのです。
中身が新品の正規品でもアウト! ハイミー事件が示すポイント
ハイミー事件では、回収した正規品が未開封・未使用ということで、中身に異物が混入したり、品質が劣化したりしている可能性はほぼありません。
それでも裁判所は「正当な権限のない者が、登録商標の付された包装で商品を販売目的で所持していたら商標権侵害になる」と判断しました。
なぜ厳しい判断を下すのか?
それは、「商標権者がコントロールできない流通経路で勝手に流通されること」を防ぐためです。
商標権者が想定する品質管理や正規の販売ルート、アフターケアなどが受けられない商品が市場に出回ると、結果的にブランドの信頼性(商標の機能)が損なわれるからです。
ここがポイント:商標は「名前やデザイン」だけの話ではない
- 中身が本物でも無断で小分け販売したり、類似商標を勝手に使う行為は商標権侵害となり得る
- 商標には「自他商品等識別機能」「出所表示機能」「品質保証機能」「宣伝広告機能」の4つがあり、これらの機能を守るために法律が強く保護している
- ブランドイメージを保つためには、正規ルート・正規の方法での販売が大前提
「空瓶に安物を入れて売ったら商標法違反」というニュースは衝撃的ですが、実は中身が正規品でも、無断で商標を使用すれば侵害になる場合があるのです。
商標は単なる名前やロゴではなく、企業やブランドの“顔”となる重要な権利です。
一見「大丈夫そう」に見える行為でも、法律的には一線を超えてしまうケースがあります。
4.まとめ
商標を長く使い続けることで、「自他商品等識別機能」「出所表示機能」「品質保証機能」「宣伝広告機能」といった商標本来の機能が十分に発揮されます。
これは、商標を使い続けた結果として、商標権者の信用がその商標に蓄積されていくからです。
そして、多くの人に馴染み深い(=商標の機能が強く働く)ブランドほど、そこには商標権者の継続的な努力や投資、そして消費者が寄せてきた信頼が詰まっています。
だからこそ、不正使用や中身の詰め替え、無断での小分け販売といった行為には厳しい罰則が科されることもあるわけです。
ここがポイント
- 商標の機能は、信用をベースに強化される
- 多くの人に知られているほど、ブランドに蓄積された信用は大きい
- その結果、商標の持つ価値も高まり、不正使用への取り締まりも厳しくなる
このように、商標は単なる名前ではなく、長年にわたる企業の取り組みや消費者の信頼が形となったものです。だからこそ、不正な利用は法的にも強く規制され、場合によっては逮捕や賠償責任などの重大な結果を招きかねません。
もし商標の使用や取り扱いに疑問を感じたら、ぜひ一度、商標の専門家である弁理士や弁護士に相談してみてくださいね。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
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