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歌手名の商標登録、意外な盲点!〜「目印」としての役割か、「品質表示」としての役割か?〜

1. 歌手名は商品によって見え方が変わる

歌手名や音楽グループ名を商標登録できるかは、名前だけを見ても決まりません。商標登録出願では、商標と、それを使う商品・サービス(役務)を組み合わせて指定します。同じ名称でも、録音物に表示する場合と、衣類や公演サービスに表示する場合では、取引者や購入者の受け止め方が異なります。

商標の基本的な役割は、商品・サービスの提供元を区別する目印になることです。その一方で、歌手名がCD、レコード、音楽ファイルなどに表示されると、誰が歌っている作品かという商品の内容を伝える表示にもなります。この二つの働きを分けて考えることが、出願範囲を決める出発点です。

2. 録音物では内容表示と判断されることがある

特許庁の商標審査基準は、需要者に歌手名または音楽グループ名として広く認識されている表示を、録音・録画済みの記録媒体などに使用する場合、その商品の品質、すなわち収録内容を表示するものと判断する運用を示しています。識別力がないと判断されれば、商標法3条1項3号による拒絶理由の対象になります。

これは、歌手名が一般に価値の低い表示だという意味ではありません。著名であるために、購入者が名称を「その歌手の曲が収録された商品」という内容説明として理解する場面がある、という問題です。また、その歌手と無関係な録音物に名称を使えば、内容について誤認を生じるおそれがあり、商標法4条1項16号も検討対象になります。

知名度が上がる前なら必ず登録できるわけではない

名称がどのように認識されるかは審査時の事情を含めて個別に判断されます。早い出願には第三者の先願を避けやすくする面がありますが、将来の利用予定を離れて商品を選ぶことや、識別力以外の拒絶理由を回避することまでは保証しません。

3. LADY GAGA事件が示した判断

知的財産高等裁判所の2013年12月17日判決(平成25年(行ケ)第10158号)は、「LADY GAGA」を第9類のレコード、受信・保存可能な音楽ファイル、録画済み媒体などに指定した出願を扱いました。

裁判所は、指定商品にその名称を使用すると、取引者・需要者は収録曲を歌唱する者や映像に出演する者を示したもの、つまり商品の品質(内容)の表示と認識すると判断しました。そのため、自他商品の識別標識として機能せず、歌手と無関係な商品に使う場合には品質誤認のおそれもあるとして、拒絶審決を維持しました。

この判決から読み取れるのは、「著名な歌手名は一切登録できない」という結論ではありません。問題となったのは、特定の名称と、録音・録画済み商品との組合せです。別の商品・役務では、その名称が提供元を示す目印として働くかを改めて判断します。

4. グッズやサービスは別に検討する

衣類、アクセサリー、化粧品、玩具などのグッズや、音楽公演の企画・運営、音楽配信などのサービスでは、歌手名が出所を示す商標として機能する場合があります。ただし、商品・役務名を広く並べれば十分というものではなく、実際の活動と今後の事業計画に沿って指定します。

  • 音源、映像、配信など、名称が内容表示になり得る商品・役務
  • 衣類、雑貨、化粧品など、公式グッズとして展開する商品
  • 公演、ファンクラブ、広告、オンライン提供などのサービス
  • 名称の文字表記、ロゴ、略称、読み方の違い
  • 先行商標と、他人の氏名・芸名などに関する拒絶理由

既存の登録例は参考になりますが、登録時から指定内容や権利状態が変わることがあります。番号だけを転記せず、J-PlatPatで最新の経過情報と指定商品・役務を確認してください。

5. 氏名・芸名に関する拒絶理由にも注意する

識別力とは別に、商標法4条1項8号は、他人の肖像、氏名・名称、著名な雅号・芸名・筆名などを含む商標を規制しています。本人が活動名を出願する場合でも、所属会社や権利管理会社が出願人になる場合でも、名称と出願人の関係、他人の権利、承諾の要否を確認します。

2024年4月1日施行の改正で、「他人の氏名」を含む商標については、一定の知名度、出願人との相当の関連性、不正目的がないことを用いる新しい判断枠組みが導入されました。ただし、この改正は、著名な芸名に関する規定や、録音物についての識別力判断を一律に撤廃したものではありません。氏名、芸名、商品の内容表示は別々の論点です。

人名を含む商標の改正内容は、人名は商標登録できるのかでもご案内しています。活動名と使用予定の商品・役務が決まっている場合は、表記案と事業内容を添えてお問い合わせください

6. よくある質問

Q1.歌手名はCDについて商標登録できませんか?

常に登録できないわけではありませんが、需要者に広く知られた歌手名が収録内容を示すと判断される場合は、識別力や品質誤認が問題になります。名称の認識と指定商品の内容を個別に検討します。

Q2.グッズなら同じ歌手名を登録できますか?

グッズでは出所表示として機能する可能性がありますが、先行商標や他人の氏名・著名な芸名など、別の拒絶理由も確認します。

Q3.本人ではなく所属会社が出願できますか?

所属会社が出願人になる例はあります。本人との契約、承諾、名称との関係、将来の権利帰属を整理してから出願します。

Q4.2024年の法改正で芸名も登録しやすくなりましたか?

改正の中心は「他人の氏名」を含む商標です。著名な芸名の扱いや、歌手名が商品の内容表示になるかという審査は別に残るため、すべての活動名が一律に登録しやすくなったとはいえません。

Q5.文字名とロゴは別々に出願すべきですか?

文字だけで広く使うのか、特定のロゴを中心に使うのかで判断が変わります。予算、実際の表示、変更予定、先行商標を比べて優先順位を決めます。

まとめ

歌手名の商標登録では、名称そのものより先に、どの商品・役務でどのように使うかを確認します。録音物では内容表示、グッズやサービスでは出所表示として受け取られることがあり、氏名・芸名に関する拒絶理由も別に検討します。活動開始から商品展開までを一覧にし、必要な範囲を選んで出願してください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

参考資料

  • e-Gov法令検索「商標法」(3条、4条) https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000127
  • 特許庁「商標審査基準〔改訂第17版〕」 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/
  • 特許庁「他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されます」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/shimei.html
  • 知的財産高等裁判所 平成25年12月17日判決(平成25年(行ケ)第10158号) https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-83838.pdf

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