1. はじめに
特許庁で商品のネーミングやお店の名前を商標登録することにより、指定した業務と関係のある範囲で他人の登録商標の無断使用を防ぐことができます。
他人にこちらの登録商標の無断使用を止めるようにいう法的根拠があるだけでなく、実際に無断使用する他人がいたなら、差止請求や損害賠償請求ができます。私が実際に関与した商標権侵害訴訟の場合は、侵害者側が1000万円を超える損害賠償額を支払う事例がありました。
この様に事業を進める上で重要な商標登録制度ですが、特許庁への手続の際に、会社で登録するか、個人で登録するか悩む方も多いと思います。今回は会社登録と個人登録のメリットデメリットについて説明します。
2. 商標登録とは
商標登録とは、特許庁に商標登録出願の手続をして、審査に合格して、商標権が発生するまでの一連の行政手続のことです。
先に商標登録を済ませた者だけが、商標権の範囲内で登録商標を使用することができます。特許庁が誰に商標権を設定するかは、最初に特許庁に手続を済ませた者が誰かにより決定されます。
他人より出願が遅れると、他人が商標の正当権利者になり、それ以外の方は無断では登録商標を使用できなくなります。
商標権は更新手続により、10年単位でいくらでも権利期間を更新することができますので、商標権者がその気になれば、いつまででも商標権を独占した状態を保つことができます。
3. 会社としての商標登録
商標権者は、法人でも個人でもなることができます。また複数人の共有の形で商標権を得ることもできます。
会社で商標登録をするメリットは次の通りです。
3-1. 商標権の管理が簡単になる
会社で商標権を一括管理しておけば、商標権は会社のものです。このため会社の代表者が交代する場合でも、有料の商標権の移転手続が不要になります。
3-2. 個人情報を直接公開する必要がない
個人で出願した場合、商標公開公報や商標公報に個人情報が掲載されます。ただし、全員が同じ条件で手続きしているので自分だけが不利になるわけではありません。
会社で出願した場合は、会社の名前と住所が公開されるだけですので、直接の個人情報の公開を避けることができます。ただし法人代表者の情報は法務局で閲覧できます。このため、商売をする以上は、完全に個人の情報を隠すことはできない仕組みになっています。
4. 個人としての商標登録
個人でも商標権を取得することができます。個人で商標権を得る場合は、会社で商標権を得る場合のメリットデメリットが裏返しになります。
個人で商標登録をするメリットは次の通りです。
4-1. 会社の乗っ取りによる商標権の喪失を防止できる
会社で商標権を保有している場合、会社が乗っ取りを受けたり、自分が会社から追い出されたりした場合には、商標権を失います。
これに対し、個人で商標権を取得しておけば、組織の内部分裂による商標権の喪失を防ぐことができます。
4-2. 会社設立前でも商標権を保有できる
会社設立には時間と費用がかかります。小規模事業で必ずしも法人化を急がない場合には、個人で商標権を取得しておく場合もあります。
5. 商標登録は、会社で行うか個人で行うか、どうちらが正解か?
個人で商標権を保有した場合、後継者に事業を引き継ぐ場合に商標権の数に比例した移転手続費用が発生します。また個人情報も公開されてしまいます。
一方、会社で商標権を保有した場合には、後継者に事業を引き継ぐ場合でも商標権の有料移転は不要ですから、管理が楽になります。また個人情報を直接公開する必要がありません。ただ、会社の内部分裂や乗っ取りの可能性がある場合には会社保有では不利になります。
これまでの実績では、会社を保有している方は、会社で商標権を取得する場合がほとんどです。
6. まとめ
商標権は個人間でも、個人−会社間でも原則移転できます。このため必要に応じて後から商標権を個人保有にも会社保有にも変更できます。
ただし商標権の移転には費用が発生します。このため最初からどの形でいくかは弁理士・弁護士と相談して、事前に決定しておくのが将来の費用発生防止の意味でもよいと思います。
7. 商標登録を会社で行うか個人で行うかのよくある質問
Q1 : 商標登録は、会社名で登録するべきですか、それとも個人名で登録するべきですか?
回答: どちらにするかはビジネスの状況や目的によります。会社名で登録すれば、その商標は会社の資産となりますが、個人名で登録すれば、会社の許可を得ることなく、その商標権を自由に売買することができます。
Q2 : 個人名で登録した場合、その商標を会社が使用することはできますか?
回答: できます。ただしその場合、使用許諾契約を結ぶことが必要になる場合もあります。
Q3 : 商標登録に必要な費用は、会社と個人で違いますか?
回答: 商標登録に必要な費用は、登録を行う主体(会社か個人か)ではなく、登録する商標の種類や範囲などによります。
Q4 : 個人名で登録した商標を会社名に変更することは可能ですか?
回答: その場合、商標登録の移転手続きを行うことにより、商標の所有者を変更することが可能です。
Q5 : 商標登録の保護範囲は、会社と個人で違いますか?
回答: 商標登録の保護範囲は登録の主体ではなく、登録された商標そのものと、その商標が登録された商品やサービスの範囲により決まります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247