索 引
1.民事訴訟への流れ
企業は、競争において優位に立つため、研究開発に資源を投入します。研究開発の結果、優れた発明が生み出されれば、特許庁に出願の上、特許を受けることもできるでしょう。企業は特許権者として、特許発明の独占的な実施が可能です。ただ、現実には、ライバル企業が特許権を侵害する事態も生じ得ます。
特許権者としては、まずは警告書を送付し、特許発明の実施の中止を求めたり、ライセンス契約の締結を求めたりします。当事者間において、交渉が行われ、一定の合意に至れば、紛争は終結します。しかし、ライバル企業が警告書を無視した場合や交渉が決裂した場合、話合いによる解決は不可能です。法に照らして自己の主張に正当性があると信じるならば、民事訴訟により紛争解決を図ることも選択肢となります。
民事訴訟は、裁判所の主宰の下に行われる手続です。原告が訴えを提起し、被告が応訴し、裁判所が判決を下します。民事訴訟は最も厳格な手続であり、法律上の権利義務をめぐる争いを対象とします。被告は対応を迫られ、裁判所の判決は原告・被告を拘束します。
民事訴訟の一般的な流れは概ね以下のとおりです。
2.手続の流れ
(1)原告の訴え提起と裁判所・被告の対応
民事訴訟は、原告の訴え提起により、開始します。原告は、裁判所に対し、原則として訴状を提出します。訴状には、当事者の他、裁判所に判断を求める請求の内容を記載し、かかる請求を基礎付ける事実も記載します。訴状に記載すべき事項は、民事訴訟法等に定められています。訴状の提出に際しては、証拠も併せ提出します。
裁判所は、訴状を受け付けると事件番号を付すなどした上、裁判長の審査に訴状を付します。訴状に不備がなければ、訴状審査は終了です。裁判所は原告のスケジュールを確認した上第1回口頭弁論期日を指定します。
被告は、訴状の副本の送達を受けます。また、第1回口頭弁論期日への呼出しも受けます。被告は、限られた時間で対応方針を検討し、答弁書を裁判所に提出しなければなりません。答弁書は準備書面であり、答弁書に記載すべき事項も民事訴訟法等に定められています。第1回口頭弁論期日は被告のスケジュールを確認せず指定されるため、被告は欠席せざるをえないケースもままありますが、答弁書を提出しておけば、その内容を陳述したものとみなされます。
(2)第1回口頭弁論期日
口頭弁論は、裁判官、書記官、当事者(訴訟代理人)が出席した上、公開の法廷で開かれます。
事件番号が呼び上げられることにより口頭弁論の期日は開始し、訴状が原告によって陳述され、答弁書が被告によって陳述されます。上述のとおり、被告が欠席した場合、答弁書を提出していれば、その内容を陳述したものとみなされます。次回期日の日程と準備事項を必要に応じ調整すると、通常、第1回口頭弁論期日は終了となりますので、比較的短時間で終わる手続といえます。
他方、被告が欠席したにもかかわらず答弁書を提出していない場合、被告は自白したものとみなされ、条件が整えば裁判所は判決を言い渡すことが可能となります。
(3)争点及び証拠の整理
多くの場合、民事訴訟では、法律上・事実上の事項について当事者の主張に相違があります。効率的な審理の実現のため、争点及び証拠の整理のための手続が設けられ、かかる手続において当事者は主張と証拠を提出することになります。
争点及び証拠の整理のための手続は、第1回口頭弁論期日と異なり必ずしも公開の法廷において行う必要はなく、裁判所内の部屋などで行うことも可能です。当事者は主張を記載した準備書面を提出し期日に備えます。
(4)証拠調べ
争点及び証拠の整理が終わると、必要に応じ証拠調べ手続に移ります。証拠調べ手続では、証人や当事者の尋問が行われます。
ただ、通常の民事訴訟の第一審において、証人や当事者の尋問が行われるのは15パーセント程度です。多くの事件は、証人や当事者の尋問が行われることなく、処理されているのが実情といえます。
証人や当事者は宣誓の上供述し、意図的に虚偽の事実を述べれば、偽証罪や過料の制裁に処せられることになります。
(5)和解・判決
裁判所はいつでも当事者に対し和解を勧めることができます。裁判上の和解は広く行われており、30パーセント強は和解により終結しています。
和解も訴えの取下げ等もない場合、条件が整えば裁判所は口頭弁論が終結させた上で、判決を言い渡します。判決言渡し期日においては、判決の主文のみが朗読され判決の理由は朗読されないのが一般的です。当事者には、後日、判決書の正本が送達されます。
(6)控訴
判決は判決書の送達を受けた日から2週間が満了することにより確定します。
判決の確定を避けるには、控訴が必要です。控訴権の濫用は許されないものの、判決に不服がある場合、控訴により裁判所の判断の変更を求めることになります。
3.まとめ
通常の民事訴訟の第一審手続は、事案にもよりますが、平均して8ヶ月程度の審理期間を要します。他方、同じ民事訴訟でも、知的財産権侵害訴訟の場合、約14ヶ月程度の審理期間を要し比較的長い時間がかかります。また、知的財産権訴訟の場合、専門訴訟であるが故に通常の民事訴訟の手続と異なる審理モデルが採用されています。
ただ、知的財産権侵害訴訟も民事訴訟である以上、大きな枠組みは同じです。民事訴訟を利用する場合、その枠組みについて、踏まえておくことは有益といえます。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247