商標権侵害における損害論について

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1.商標権侵害における損害論について

商標権者は、登録済みの商標を指定商品に対して独占的に使用できる権利を持つため、その商標を使用することにより業務上の信用が成長していきます。

この業務信用が成長した商標を無断で使用された場合、商標権者は「無断使用を停止させたい」と考えるだけでなく、「その損害を基に賠償を求めたい」と思うのは自然なことです。

商標法や民法の規定に基づき、裁判所で商標権侵害が認定されると、損害の発生や量、因果関係を立証できるならば、商標権者の求める賠償が認められます。

たとえば、侵害の実態を調査するために費用を払った場合、その費用は賠償計算に含まれる可能性があります。また、訴訟の運営に必要な後述の費用も賠償として認められることがあります。

  • 調査費用
  • 弁護士や弁理士に依頼した場合の費用

上記のような費用は、損害として認定される可能性があります。

無形の損害

侵害者が質の悪い商品に登録済みの商標を無断使用した場合、消費者に「商標権者が賢慎でない商品を供給した」と思われ、業務信用が損なわれることがあります。

このような状況では、商標権者は「精神的苦痛」を受けることになり、この無形の損害も賠償の対象として認められます。

売上減の損害

商標侵害の結果、商標権者の売上が減少した場合、その減少分を損害として賠償を求めることができます。これを「消極的損害」と呼びますが、この消極的損害に関する因果関係の立証は難しいという問題があります。

たとえば、侵害者の商品が「商標権者の商品と代替関係にある」といえる場合は限られます。そのため、「侵害者の商品が無かったなら、商標権者の売上が減らなかったか」については不確定です。

商標法の緩和条項

このような因果関係の立証の難しさを考慮し、商標法は消極的損害の立証責任を緩和するための条項を設けています。

損害の額の推定等

商標法第38条は、商標権者や専用使用権者が侵害を受けた場合の損害額を推定する方法を定めています。

  • 1. 侵害者が、商標侵害行為を行った商品を譲渡した場合、その譲渡した商品の数量に、商標権者がその侵害行為がなければ売上できた商品一個当たりの利益額を乗じて得た額を、商標権者の用意できる能力に応じた額を超えない範囲で、損害額として認めることができます。ただし、譲渡数量の全部または一部に相対する数量を商標権者が売上できない事情がある場合、その分を持ち引くことができます
  • 2. 侵害者が商標侵害行為で利益を得ている場合、その利益額を商標権者の損害額と推定することができます
  • 3. 商標権者は、商標を無断使用されたことに対し、その使用により受けるはずの金額を「損害額」として賠償を求めることができます

2.38条各項により推定される損害の額

(1)38条1項

38条1項は、「侵害者の商品の譲渡数量 × 権利者の単位数量当たりの利益の額」を権利者の消極的損害の額と推定します。

権利者の使用能力には限界がありますが、侵害者の商品の譲渡数量と権利者の商品の譲渡数量は等しくなるという考えを前提としています。

権利者の使用能力を限界とする理由は、権利者が10の商品の生産能力しかないにもかかわらず、侵害者が100の商品を生産している場合に、権利者の譲渡数量を100とするのは不合理だからです。

ただし、1項本文による損害額はあくまで推定にすぎません。侵害者は然るべき事情を立証することで推定を覆すことが可能です。

1項ただし書に規定されているとおり、侵害者は営業努力や宣伝広告などを立証し、推定を覆すことができます。

(2)38条2項

38条2項は、侵害者が受けた利益額を権利者の消極的損害額と推定します。

侵害者の利益を算定する際には、1項と同様に「侵害者の商品の譲渡数量」を把握する必要がありますが、基準となる「単位数量当たりの利益の額」は権利者ではなく「侵害者」のものです。

権利者の利益よりも侵害者の利益の方が立証しやすい場合もあるため、38条2項を活用する価値があります。

2項には1項のようなただし書はありませんが、同様に法律上の推定規定であり、侵害者は然るべき事情を立証することで推定を覆せます。

(3)38条3項

38条3項は、ライセンス料相当額を権利者の消極的損害額と推定します。

侵害者が無断で商標を使用せず、権利者とライセンス契約を結んでいれば、権利者は少なくともライセンス料を得られたはずです。この考えを前提に、権利者の損害額をライセンス料相当額と推定します。

38条3項によれば、1・2項と異なり損害の「発生」を立証する必要はなく、ライセンス料相当額の金額を立証すれば足ります。

ライセンス料相当額の損害が認められる場合、その額は通常のライセンス料と同額になるわけではなく、具体的な事情に応じて決定されます。

たとえば、登録商標が著名であれば損害額は高くなる傾向がありますが、無名であれば低くなる傾向にあります。

損害額を引き上げる事情は権利者が立証し、逆に損害額を引き下げる事情は侵害者が立証することになります。

3.おわりに

訴訟では、商標権侵害の成否に関する争いが先に審理され、侵害が認められた後、損害に関する争いが審理されます。商標権侵害が不成立ならば、損害に関し審理する必要がないからです。

いくらの損害が認められるかは当事者にとって重大な関心事であり、さまざまな争点について主張・立証が尽くされます。

損害額を決定する際には、登録商標の知名度や市場における地位、侵害の程度など、具体的な事情が考慮されます。

権利者にとって有利な損害額を認めさせるためには、これらの事情を十分に立証することが必要です。一方で、侵害者は損害額を引き下げる事情を立証することで、負担を軽減することを図ります。

ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247

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