索 引
2020年2月20日、ファーイースト国際特許事務所にフジテレビの情報番組「とくダネ!」から取材の連絡がありました。テーマは、B-1グランプリ優勝で全国的に知られることになった「シロコロホルモン」の商標権問題についてです。この問題がどのような結末を迎えたのか、商標登録の専門家として、顛末を報告します。
結論からいうと、現在では「シロコロ」の文字だけの商標に関する商標権は全て、商標権の存続期間の更新手続きがされないまま失効しています。この問題の経緯を追いながら、商標権をめぐる大切なポイントを順に見ていきましょう。
1. 商標権者側の団体が解散したら商標権はどうなるのか
厚木シロコロ・ホルモン探検隊は、当初の目的を果たしたとして2019年に団体を解散しました。この時、疑問に思われた方も少なくなかったのが「団体が解散したら商標権はなくなってしまうのか」という点です。
実は、シロコロホルモン関係の商標権は団体の名義ではなく、個人名義で取得されていました。商標権は不動産と同様、法的には財産権の一種として扱われます。このため、団体が解散したとしても、商標権そのものは個人の所有として残り続けます。団体の活動終了と商標権の存続は、法律上は別の問題なのです。
この状況下では、商標権者である個人が許可しない限り、第三者は「シロコロ」の文字だけの商標を使用できません。仮に使用した場合、商標権侵害として法的責任を問われる可能性があります。
2. ライセンスの更新と商標権の更新の違いとは
ここで注意が必要なのは、商標権そのものの更新と、登録商標を使える権利の更新とでは、意味が異なるという点です。この違いを理解していないと、混乱が生じます。
商標権の存続期間は登録日から10年間です。権利が失効する前に更新手続きを行うことで、さらに10年間権利を延長できます。この仕組みは運転免許の更新制度と似ています。最初の登録時には特許庁の審査を受けますが、以降は更新手続きにより権利を維持し続けられます。
一方、ライセンスの更新は異なる概念です。商標権者は、自身が所有する商標権について、誰に使用を許可するか、どの地域で使用を認めるか、どの程度の数量の販売を許可するか等の条件を自由に決定できます。
ライセンス契約の本質は、シロコロの登録商標やそれに類似した商標を使っても、商標権者が権利行使をしないという約束です。使用を許可する代わりに、ライセンス料を徴収するケースもあります。
もし商標権者がライセンスを更新しない判断をした場合、それまでシロコロの登録商標を使っていた業者は、登録商標を使用できなくなります。使用を続けた場合、権利侵害として差止請求や損害賠償請求の対象となります。
3. 商標権の買取り交渉が決裂した場合のシナリオ
仮に、商標権者側が希望する買い取り価格での商標権の購入を厚木市が拒否し、かつ商標権者側がライセンスを更新せず、新たにシロコロの使用を認めない場合には、どうなるのでしょうか。この場合、厚木市はもちろん、これまでシロコロの商標を使っていた業者も、シロコロの商標を使えなくなります。
商標権は不動産と同様、他人に移転できます。売却することもできますし、賃貸して使用料をもらうこともできます。今回のケースでは、商標権者側は買い取りを希望していました。
では、厚木市側が商標権を買い取らず、現在の商標権者が別の企業に商標権を売却すればどうなるのでしょうか。特許庁にライセンスの存在を登録していない限り、新たに商標権を取得した企業が登録商標の使用を認めなければ、厚木市側が登録商標を使えない状態が継続します。
ただし、誰もお金を払わない商標権を、他の誰かがお金を出して買い取るのかという現実的な問題もあります。商標権の価値は、その商標を使用することで得られる経済的な利益によって決まるからです。
4. 最終的に商標権の更新手続きがされず、権利は失効した
厚木シロコロ・ホルモン探検隊は前年に解散し、その活動も終了しました。結果として、商標権の更新時期が到来しても、更新の手続きはされませんでした。
商標権の権利が切れる更新時に更新手続きをしないと、商標権は消滅します。商標権がなくなった結果、誰もが自由にシロコロの名前を使えるようになります。この状態になれば問題は解消するのではないか、と思われる方もいらっしゃるでしょう。
確かに、誰もがお金を払わず自由に使えるということは、法的な制限がなくなることを意味します。しかし、これは地元厚木市だけでなく、他の地域でも自由に使えることを意味します。
また、他の法律に違反しない限り、品質の劣る商品で、誰もこれはシロコロとは呼べないだろうと思えるようなホルモン焼きを販売する業者が現れても、商標権でその行為を止めさせられません。地域を盛り上げるために、他の業者が無断で使用できないように管理してきた体制が、なくなってしまうのです。
商標権が失効したら他人が商標権を取得できるのか
シロコロ関係の商標権が全て失効した場合、他人が商標権を取得できるかというと、理論的には可能です。誰も権利を取得していない状態では、最初に権利申請をした者が商標権者になることが原則だからです。
ただし、実際にシロコロ関係の商標権が失効して、厚木市とは関係がない第三者がシロコロの文字だけの商標について商標登録出願をしても、特許庁の審査官が登録を認める可能性は低いでしょう。
一つ目の理由は、シロコロの商標がホルモン焼きの名前として一般的な名称になっており、今では誰もが自由に使える言葉になっているため、特定個人や企業に権利を認めないというものです(商標法第3条)。
二つ目の理由は、シロコロの商標がホルモン焼きの名称として広く知られているため、その名称を有名にした関係者を除き登録を認めないというものです(商標法第4条第1項第10号など)。
いずれにせよ、一度権利を失効させてしまうと、商標権を再取得するのは相当程度困難になります。
ただし、「シロコロ」との文字だけの商標をホルモン焼きの権利として取得するのが困難になるだけであり、「シロコロ」との文字や「シロコロホルモン焼き」との文字を含む場合で、別の商標の要素が入る場合には、それぞれが登録可能になります。
例を挙げると、「東京」との地名表記を商標権で独占できなくても、「東京ディズニーランド」や「東京スカイツリー」等の「東京」の文字を含む商標権は取得できる場合と同じです。
5. まとめ
法律では、このレベル以上で商標権を買い取らなければならないという制約は一切ありません。オークションと同様、双方が納得すれば、数百億円規模で取引される商標権も存在します。全ては当事者の話し合い次第です。
最終的には、「シロコロ」の文字だけの商標権は更新手続きがされず、失効しています。以前の商標権者側からみれば、更新費用を負担できるだけの経済的な効果が見込まれなかったということに、現在では落ち着いています。
この事例は、商標権の管理について大切な教訓を残しました。地域ブランドを守るためには、商標権を取得するだけでなく、長期的な維持管理の計画と、それを支える経済的な基盤が必要だということです。
6. よくある質問
Q1:団体が解散すると、その団体が持っていた商標権もなくなりますか?
なくなりません。商標権は財産権の一種で、団体そのものではなく登録の名義人に帰属します。シロコロの場合は個人名義だったため、団体が解散したあとも名義人が権利を持ち続けました。
Q2:商標権の「更新」とライセンスの「更新」は何が違うのですか?
商標権の更新は、登録から10年ごとに権利そのものを存続させる手続きです。一方、ライセンスの更新は、商標権者が他人に使用を許可する契約を続けるかどうかという話で、両者は別の事柄です。
Q3:一度失効した商標権は、もう一度取り直せますか?
出願自体は誰でもできますが、「シロコロ」のように一般的な名称として定着し、広く知られた言葉は、商標法第3条や第4条第1項第10号により登録が認められにくくなります。そのため、再取得は相当に難しくなります。
Q4:商標権が失効すると、地域ブランドにはどんな影響がありますか?
誰でも自由に名前を使えるようになる反面、品質の劣る商品に同じ名前が使われても止められなくなります。地域で時間をかけて築いた名前の価値や信頼を、守る仕組みが失われてしまいます。
Q5:地域ブランドを長く守るために、大切なことは何ですか?
商標権を取得するだけでは足りません。更新費用をまかなう経済的な基盤と、誰が権利を維持・管理し続けるのかという長期的な体制づくりが欠かせません。早い段階から専門家に相談し、計画を立てておくと安心です。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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