1. なぜ日本代表のチーム名称を登録するのか
秩序ある商業利用の促進
スポーツの日本代表の愛称を商標登録するのは、健全で秩序ある商業利用を促進するためです。愛称が商標登録されていれば、その愛称を商売の表示として使用できるのは商標権者か、正式に使用許可を得た者だけに限られます。
商標権が存在することで、どのような商品や役務に愛称を使えば権利侵害になるかが商標公報で公示されます。これにより、チームの愛称が無断で業務に使用されているかどうかを簡単に見分けられます。
商標登録による保護の目的は、許可されていない業者による無断使用を防ぐことです。商標権を取得しておけば、日本代表チームの愛称を付けた粗悪品が市場に流通するのを防げます。チームのブランド価値を守り、ファンが安心してグッズを購入できる環境を整えることが、商標登録の重要な役割です。
スポンサーの保護
日本代表チーム名が商標権できちんと管理されていれば、日本代表のエンブレムが表示された商品は本物である証明になります。使用許可を得たスポンサーだけが日本代表チームの愛称ロゴを使える仕組みは、スポンサー企業にとって大きな意味を持ちます。
ライセンス管理が不十分だと、日本代表チームの愛称ロゴを使って粗悪品を販売する業者が現れる可能性があります。そうなると、消費者はスポンサーが粗悪品を扱っているのではないかと誤解してしまいます。スポンサー企業のブランドイメージが傷つくリスクが生じるのです。
きちんとライセンス管理されたエンブレムを使えるなら、スポンサーも安心して公式グッズを販売できます。消費者も本物であることを信頼して購入でき、健全な市場が形成されます。
2. スポーツ日本代表の愛称登録例
日本代表のチーム名の商標登録例
スポーツ関連の日本代表チームの愛称名は数多く商標登録されています。代表的な登録例を紹介します。
- 「なでしこじゃぱん」(商標登録第4845345号)
財団法人日本サッカー協会が権利を保有しています。女子サッカー日本代表の愛称として広く知られており、2011年のFIFA女子ワールドカップ優勝を機に国民的な人気を獲得しました。 - 「SAMURAI JAPAN」(商標登録第5297420号)
一般社団法人日本野球機構が登録しています。野球日本代表の愛称として、国際大会での活躍とともにブランド価値を高めてきました。 - 「SAMURAI BLUE」(商標登録第5995044号)
公益財団法人日本サッカー協会が保有しています。男子サッカー日本代表の愛称として、ワールドカップなどの国際舞台で使用されています。
このほかにも、「雷神JAPAN」(商標登録第5812798号、公益財団法人全日本空手道連盟)や「煌めきJAPAN」(商標登録第5987059号、一般社団法人日本パラバレーボール協会)など、各競技団体が代表チームの愛称を商標登録して保護しています。
3. チームの愛称を使うと法律違反?
商標法に定める商標は、業務に使うことが前提になっています。このため、商標権に抵触する範囲で登録商標を業者が使うと、商標法違反になります。
無償でも、業務として使うと法律違反に
商標法に定める商標の使用は業務に使うとの限定がありますが、無償なら商標権侵害にならないと考えるのは危険です。商標法には、無償なら法律違反にならないという除外規定がないからです。
たとえ無料で配布する商品であっても、業務として日本代表チームの愛称を使用すれば商標権侵害に該当します。企業の宣伝活動やプロモーション活動で無償配布する場合でも、業務での使用として扱われる可能性があります。
施設利用規約に注意
業務として日本代表チームの愛称を使えないとしても、個人使用なら問題ないかというと、そうでない場合もあります。個人使用についても制限があるときがあります。
競技施設で応援する際には、施設利用規約等に従う必要があります。旗振りや横断幕を広げることが制限されているケースもあります。これらの使用に違反すると、施設運用者との間でトラブルになることもありますので注意が必要です。
個人間売買も注意
個人間売買は商売ではないので問題ないかというと、個人間売買についても注意が必要です。
継続的に繰り返し個人間売買を行っているのであれば、これは個人事業主が個人事業を行っているのと区別がつかなくなります。個人間売買だから商標法違反にならないということではありません。
フリマアプリやオークションサイトで日本代表のエンブレム商品を繰り返し販売している場合、業務としての使用と判断される可能性があります。
チームエンブレムの所有
商品や役務の表示として、日本代表チームのエンブレムを使わない場合は、原則として商標法違反にはなりません。しかし、日本代表チームのエンブレムを販売のために所持すると、商標法違反になる場合もあります。
実際、五輪関連のエンブレム等を販売のために所持していた業者が逮捕された事例もあります。販売目的での所持は、商標権侵害の準備行為とみなされるのです。
偽物の販売は法律違反
実際に日本代表のチームエンブレム商品を販売する際には、その商品が本物であることを確かめてから販売する必要があります。偽物とは知らずに販売した場合でも、捜査機関に摘発されることはありえます。
商標法には、偽物と知らないで販売した場合には商標法違反にはならないという規定がないからです。偽物商品については、商標権者はその販売を許可することはありません。
登録されている日本代表チームのエンブレムがついている、商標権の範囲内の商品を販売するだけで、商標権の侵害になります。
偽物であるかどうかを購入先から教えてもらえなかった、偽物であるかどうかを知らなかったなどの個別の事情は、商標権侵害のチェック項目に含まれていないのです(商標法第25条、第37条第1項第1号)。
4. まとめ
日本代表チームのエンブレムがついた公式グッズは、商標権者から正当な手続きを経て入手した場合に限り販売が認められています。公式グッズかどうか確証が得られない商品に手を出すとトラブルの元になります。少しでも不安がある場合には、版元に十分確認することが大切です。
商標権による適切な保護があることで、ファンは安心して応援グッズを購入でき、スポンサー企業も自信を持って公式商品を提供できます。日本代表チームのブランド価値を守り、健全な市場を維持するために、商標登録は欠かせない仕組みなのです。
私のコメントは、2019年9月6日の神戸新聞社会面に掲載されました。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
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