なぜ洋服の商標登録で下着や寝巻の指定を忘れるのか

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索引

初めに

もう目を覆うばかりの惨状です。商標登録出願の際に、商標登録について経験のない素人さんが手続すれば、おそらくやらかすだろうと予測できる行動があります。いわゆる権利申請漏れです。権利申請漏れがあれば補充すればよいと思うでしょうが、それをすれば最初の出願と同額の倍額費用をこれからずっと支払い続ける必要があります。今回は洋服の事例を取り上げますが、洋服の権利申請だと下着を落とすだろうと予測できます。そしてその予測通り、下着の権利申請が漏れる事例が近年急増しています。

(1)まさか洋服の商標分野でも商標権取得漏れ事例発生か?

(A)なんで追加費用なしの下着を権利範囲から落とす?

さすがにこれはまずいのではないか。そんな商標権の取得事例がここ1、2年で急増しています。一つの商標権の中に当然含まれていると予想できる権利が含まれていない商標権の数が急増しているのです。特定の分野というよりも広くあらゆる分野で権利申請漏れが疑われる案件が続々みつかります。

特に、商標登録のことをよく分かっていない素人さんが手続きをしたらきっと落とすと予測できる範囲で、どんずばりそのような権利申請漏れが疑われる案件がでてきます。

結論から入りましょう。次の図1は、2010年から2020年までの各年度について取得された商標権のうち、権利範囲に洋服は含むが、下着が含まれていない商標権の登録数の推移を示したグラフです。

Fig.1 各年度に発生した商標権のうち、権利範囲に洋服を含むが下着を含まない権利申請漏れが疑われる権利発生数の推移を示すグラフ

各年度に発生した商標権のうち、権利範囲に洋服を含むが下着を含まない権利申請漏れが疑われる権利発生数の推移を示すグラフ

グラフを見れば分かる通り、洋服の商標権を取得するのに、追加するのに別段料金のかからない下着の権利が丸々抜けた商標権が急増しています。

特許庁に商標登録出願をするときに、願書に洋服を指定してもそれだけで全ての服関連商品をカバーすることはできません。

仮に願書に洋服だけを指定商品として記載して特許庁に提出した場合、洋服とは非類似として商標法上扱われる商品は全て権利範囲から抜け落ちます。

商標登録出願の際に洋服だけを指定して他を指定しなかった場合に抜け落ちる権利範囲の代表例

  1. 下着
  2. 寝巻類
  3. 水着
  4. 靴下
  5. 手袋
  6. ネクタイ
  7. 帽子
  8. ベルト

そしてこれが重要な点ですが、洋服を権利範囲に含む商標登録出願をする場合、上記の各アイテムを追加しても割増料金は発生しません。

逆に洋服についての商標権を取得する際に、これらの権利申請を願書から落とすと、もしこれらのアイテムの商標権があとから必要になった場合、最初の洋服の商標権の取得に必要になった費用と同額の費用を払って、再度特許庁に商標登録出願をしなおす必要があります。

もし洋服以外に商標権の権利範囲を拡張する場合に追加費用が発生するなら、洋服以外の権利範囲を今回は取らないという選択肢はあると思います。

けれどもなぜ追加コストを支払う必要のない時点で洋服以外の権利をあえて取得しないので、限られた狭い範囲で権利を取得するのでしょうか。

(2)1回の手続で同一料金の範囲の権利を全部取られてしまうと手続代行業者が儲からない

(A)細かく申請範囲を分割すれば分割した数の掛け算で手続費用がもらえる

ずばりいえば、手続代行業者側としては、特許庁に権利申請する際にできるだけ細かく申請範囲を区切って申請する方が、手数料を多くもらえるという実情があります。

同一料金で取得できる権利範囲を一回で一人が取りきってしまうと、一回分の手数料しか請求できません。

これに対して、同一料金で取得できる権利範囲を複数回分に分割して権利申請させると、その分割した数の掛け算で、あとで手続費用を回収することができます。

(B)申請する権利範囲がせまいほど、簡単に調査し簡単に手続準備ができる

商標登録出願の権利申請範囲を狭く絞り込むのは、いわば禁じ手といってもよいくらいに、手続き代行業者側は心誘われる手段です。

申請する権利範囲を狭く絞り込めば絞り込むほど、簡単に調査できます。また願書の作成に手間がかかりません。権利範囲が広い場合は他人の先行商標権の権利範囲と衝突する可能性が高くなりますが、権利範囲を狭くすれば他人の先行登録商標の権利範囲とかぶる可能性が低くなるので、審査官にとがめられる心配がありません。

なによりスパッと審査に合格できますので、審査官から内容不備の指摘を受けることがなく、高い品質、高い合格率を誇ることができます。

そして申請範囲を狭くすればするほど審査に合格しやすくなるので、審査不合格になって貰えなくなる可能性のある登録手数料も漏れなく回収することができます。

(C)申請後は追加ができない

もし権利申請漏れに気がついた場合、後から先に提出した願書に申請漏れがあったアイテムを追加できるなら何の問題も生じません。

しかし特許庁では一度提出して受理された商標登録出願の願書に、記載漏れがあったアイテムを追加する補正を一切認めていません。

特許庁に商標登録出願の願書を提出するのは試験を受けるのと同じなので、答案用紙の差し替えは認めない、ということです。

一度願書を提出した後に権利申請漏れに気がついた場合、後から漏れたアイテムについて追加権利申請すれば、最初の商標権の取得に要した費用と同額の費用を再度払って、権利を取得しなおす必要があります。

本来なら一つの商標登録出願にまとめることができたのに、わざわざ分けて登録すると、それ以降、あらゆる手続きの費用が倍額必要になります。誰が損をして、誰が儲けることになるのか、その流れを冷静に考える必要があります。

(3)商標権は売却できる権利であるのが分かっていない

(A)商標権は売却できる

商標権は取得後、他人に権利移転できます。この権利移転の手続きを相手からお金をもらう契約で実施することにより、商標権は売買の対象になります。

例えば「鬼滅の刃」の商標権とかであればいくらで譲ってもらえるか想像すれば分かると思います。

ちなみに権利範囲の広さが同じであれば、あなたの商標権も「鬼滅の刃」の商標権も取得費用は同じです。ただし現時点ではその費用では「鬼滅の刃」の商標権を入手できないことは誰でも分かると思います。

もし商標権の申請内容に申請漏れが見つかったとしたら。

その売却額が大きく下がる可能性があります。

権利申請漏れに気がついて、倍額払って申請漏れがあった部分を取り戻すことができればまだ救われますが、申請漏れのあった部分を他人に取られてしまうと、その範囲をこちらに取り戻せるかどうかの保証はなくなります。

(B)もし手続代行業者が率先して進めているのなら分かって実行している

特許庁に対する商標登録出願を、株式会社のような一般企業が代理手続を行うと弁理士法違反になります。このため、商標登録の手続きは専門家が実行しているという建前になっています。

しかし今回の洋服の商標登録の分野で下着が漏れている権利申請漏れが疑われる案件は、洋服関係だけではなく、広くそれ以外の業務にも及んでいます。

専門家であれば、一度特許庁に願書に提出した後に、願書に追加補正が特許庁が認めないことは十分理解しているはずです。

それにもかかわらず、権利申請漏れが疑われる案件が急増している、ということは、専門家が誰も願書をチェックしていない、ということです。

宣伝広告によりお客さまを多く集めて、バイト派遣部隊に雛形当てはめ申請させると手続き代行業者は儲かります。

テレビで大量の顧客を集めて破産した弁護士法人の例が私の脳裏を横切ります。

一応、合法の形は取っているけれど、結局、困っているお客さまの財布からお金を吸い上げるマシンの様に、手続代行業者が悪い方向に進化しつつあるのではないか。上記の図1のグラフを見て私は思うのです。

(4)まとめ

上記の図1のグラフに代表される傾向がもし権利申請漏れになるのなら、願書が提出される前に発見して、特許庁に実際にされる前に権利申請漏れを埋めておく必要があります。

もし私がチェックできるなら是正することができますが、毎年10万件以上出願される中で、私の知らないところで図1のような、素人さんが商標登録の手続きをしたなら増えるだろうと予測できる範囲で、その通り、権利漏れが疑われる案件が、あらゆる分野で急増しつつあります。全ては商標権が発生して商標公報が発行された後になってから分かります。でもそれでは遅いのです。

(A)担当弁理士に直接問いただすこと

もしお金を払って商標登録出願の代理を依頼しているのであれば、法律上、弁理士弁護士しかその業務を行うことができません。

そしてその願書の代理人の欄に担当する弁理士の名前が記載されています。商標登録出願の前に担当弁理士に連絡して、必ず内容に抜けがないか確認してください。

誠実な代理人であれば、きちんと対応してくれます。

(B)担当弁理士に追加料金なしで取得できる範囲があるかを直接きくこと

洋服を権利範囲に含む商標登録出願の願書を作成する際に、下着の権利範囲を落としている内容の願書を作成する、ということは、願書作成担当者が洋服を指定した場合、どこまで商標権の権利範囲になるのか全く理解していない、ということです。

理解していない人に説明を求めても時間を浪費するだけです。

怪しいと思ったら、必ず弁理士本人に、追加料金なしで取得できる範囲があるかを確認してください。弁理士が誰かはこれから特許庁に提出する願書に実際に記入されています。担当弁理士であれば必ず応えてくれます。

こういった確認手続きを怠ると、後になってから倍額料金を払って漏れた権利範囲の部分を再取得するはめになります。

後から困らないように、手間は惜しまないように心がけてください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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