無料商標調査 商標登録革命

商標の類否判断はなぜ揺れるのか|事前調査で白黒がつかないときの考え方と特許庁の判断が覆った事例

1. 商標が似ているかどうかの判断は、教科書の事例でなければ揺れる

商標を出願する前に、その商標が登録できるかを調べることが基本です。まったく同じ商標が同じ商品・サービスについて先に登録されていれば、後から出願しても登録は認められません。ここまでは、調べれば白黒がつきます。

難しいのは、少し違う商標、どこか似ている商標が先にあるときです。二つの商標が似すぎていて登録が認められないのか、審査を通る程度に違っているのか。この判断は、出願人にとっても審査官にとっても簡単ではありません。データベースで候補を抽出することはできますが、抽出された商標が似ているかどうかについて誰の意見も一致するのは、教科書に載るような事例だけです。

この記事では、類否の判断が揺れる理由、特許庁の中でも判断が分かれる仕組み、特許庁の判断が知的財産高等裁判所で覆った事例、事前調査の結果を事業の判断にどう使うかを弁理士が説明します。

2. 類否の判断が揺れる理由

外観・称呼・観念を総合して判断する

商標が似ているかどうかは、外観(見た目)、称呼(読み方)、観念(意味)の三つを比べ、その商品やサービスの取引の実情も合わせて総合的に判断します(商標法4条1項11号)。三つのうち一つが近くても、ほかの要素で区別できれば非類似と判断されることがあり、逆に一つだけ共通していても取引の実情から類似とされることがあります。要素を機械的に足し合わせて答えが出る仕組みではありません。

読み方が同じでも綴りや図形が大きく違う商標、読み方は違うが意味が同じ商標では、どの要素を重く見るかで結論が変わります。どの要素を重く見るかは、その商品を買う人がどこに注目して商品を選ぶか、という取引の実情で決まります。飲料のように声で注文する商品では称呼が重く、宝飾品のように見て選ぶ商品では外観が重く見られる、というように、商品ごとに比重が変わります。

データベースや人工知能は候補を出す道具

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の称呼検索や、人工知能を使った類似商標の検索は、似ている候補を洗い出し、一定の傾向を探るには役立ちます。ただ、これらは過去の判断のデータから傾向を示す道具であって、目の前の二つの商標が似ているかを決めてくれるものではありません。最終的な判断は審査官が行い、その判断は特許庁の内部でも割れます。

類否判断の基本的な見方は商標の類似性はどう判断する?見た目・読み方・意味と検索の限界で、出願前に調べる項目は商標登録の拒絶を避ける事前調査で説明しています。

3. 特許庁の中でも判断は割れる

審査官の判断は最終ではない

出願を審査するのは一人の審査官です。審査官が先行商標に似ていると判断すると拒絶理由通知が届き、意見書で反論しても理由が解消しなければ拒絶査定になります。そこで諦めれば、拒絶の結果が確定します。

拒絶査定に納得できなければ、拒絶査定不服審判を請求できます(商標法44条)。審判は3人または5人の審判官の合議体が審理し、審査官と異なる判断をすることがあります。審決にも納得できなければ、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を起こせます(63条)。審査官が類似と判断した商標が、審判や訴訟で非類似とされて登録に至る例は珍しくありません。

登録が後から消えることもある

逆の方向もあります。審査官が登録を認めた商標について、商標掲載公報の発行から2か月以内なら誰でも登録異議の申立てができ(43条の2)、その後も利害関係人は無効審判を請求できます(46条)。審査で通った商標が、異議や無効審判で先行商標と類似だと判断され、登録を取り消されたり無効にされたりすることがあります。

同じ二つの商標について、審査官、審判官、裁判官の判断が食い違う。これが、事前調査で「似ている」「似ていない」の答えを一つに決められない理由です。

4. 特許庁の判断が知財高裁で覆った事例

判断が揺れることを示す代表例が、コカ・コーラ社のリターナブル瓶の立体商標です。特許庁は、瓶の形状は商品の形を普通に表したものにすぎないとして登録を認めませんでした。審判でも拒絶審決となりましたが、2008年5月29日、知的財産高等裁判所はこの審決を取り消しました。形状が商品の形を普通に表示するものだという特許庁の判断は維持しつつ、長年の使用によって需要者が形だけで誰の商品かを認識できるようになったとして、商標法3条2項による登録を認めたのです。瓶の形状は2009年4月24日に商標登録第5225619号として登録されました。事件の経緯はコカ・コーラ瓶の形だけで商標登録できた理由を判決から解説で詳しく説明しています。

ヤクルトの容器も同じ道をたどりました。一度目の出願は特許庁でも東京高等裁判所でも認められず、2008年の再出願でも特許庁は拒絶審決を出しましたが、2010年11月16日に知的財産高等裁判所が審決を取り消し、容器の形状だけで識別力があると認めました。経緯はヤクルト容器の立体商標登録、形状は守れる?で説明しています。

この二件は形状の識別力(3条)が争われた事件で、先行商標との類否(4条1項11号)が争われた事件ではありません。ただ、どちらも特許庁が審査と審判の二段階で否定した判断を裁判所が覆しており、商標の登録可否は、特許庁の最初の判断で決まるものでも、一つの基準に当てはめて機械的に導けるものでもないことを示しています。

5. 事前調査の結果は三つに分けて読む

事前調査で先行商標が見つかったとき、結果は三つに分けて読みます。

一つ目は、同一の商標か、誰が見ても類似と判断する商標が、同じか似た商品・サービスについてある場合です。出願しても4条1項11号で拒絶されます。この場合は候補を変えるのが早道です。

二つ目は、誰が見ても非類似と判断できる場合です。そのまま出願に進みます。

三つ目が、判断が分かれる境界の事例です。ここが事前調査の本当の難所で、審査官によって結論が変わる領域です。この領域にある候補については、「登録できるか」を一つの答えにしようとするより、拒絶されたときに何が起こるか、争うとしたら何を主張できるか、争わずに別の候補に切り替える場合の損失はどれだけか、を並べて事業として判断します。

判断が分かれる領域の候補が一つしかないと、拒絶されたときに事業が止まります。候補を三つほど用意して同時に調査し、境界にある候補と安全な候補を一つずつ持っておけば、審査の結果がどちらに出ても事業を止めずに進められます。

6. 争う価値があるかを見極める

境界の事例で拒絶理由通知が届いたときは、意見書で非類似の理由を主張します。意見書の提出に特許庁の手数料はかかりません。事前調査の段階でどの先行商標が引かれそうかを見込んでおけば、主張の材料は出願前から用意できます。

拒絶査定になった場合、拒絶査定不服審判の請求料は15,000円に区分数×40,000円を加えた額です。審判で覆らなければ知的財産高等裁判所への審決取消訴訟が続き、期間は年単位になります。争う価値があるかは、その名前で既に事業を動かしているか、看板・包装・ウェブサイトへの投資がどれだけあるか、審判で主張できる材料がどれだけ強いかで決まります。事業を始める前で名前への投資がまだなければ、争うより候補を変えるほうが費用も時間も少なくすみます。既に名前が市場に出ていて顧客に知られているなら、審判まで争う価値が出てきます。

出願と登録の費用は料金案内に掲載しています。先行商標が見つかったあとの具体的な進め方は先行商標が存在する場合の対処法で説明しています。

7. 出願前に専門家と一緒に検討する意味

私たちのチームは、月間で数十件、年間で数百件の商標登録出願を取り扱っており、過去の審査や判例を基に助言しています。それでも、理論だけでは答えの出ない境界の事例には毎月出会います。こうした事例で価値があるのは、「登録できます」「できません」の二択の答えではなく、審査官がどこを問題にしそうか、拒絶されたときにどこまで争えるか、別の候補に切り替えるならいつが期限かを、出願前に並べて見せることです。

商標登録は、出せば通るものではなく、前準備と調査が要ります。同時に、データベースの検索結果を機械的に当てはめるだけでは、本来は登録できた名前をあきらめることにもなります。あらゆる角度から検討し、事業に合った出願を目指してください。当事務所では、候補の名前と使う商品・サービスをお知らせいただければ、お問い合わせフォームから調査のご相談を受け付けています。

8. 商標の類否判断についてよくある質問

Q1. 事前調査で似た商標が見つかりました。登録は無理ですか?

同一か、誰が見ても類似の商標が同じ商品・サービスにあるなら、登録は認められません。判断が分かれる境界の事例なら、出願して意見書で主張する道、名前を一部変える道、別の候補に切り替える道があります。どの道を選ぶかは、名前への投資と事業の時期で決めます。

Q2. 特許庁の審査官が類似と判断したら、それで終わりですか?

終わりではありません。拒絶査定に対しては拒絶査定不服審判を請求でき、審決に対しては知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を起こせます。特許庁の判断が裁判所で覆った例には、コカ・コーラ瓶やヤクルト容器の立体商標があります。

Q3. 検索ソフトや人工知能で類似度が低いと出れば安心ですか?

検索ソフトや人工知能は候補を洗い出して傾向を示す道具で、審査官の判断を保証するものではありません。称呼が近くても取引の実情から非類似とされることも、検索で出なかった商標が類似とされることもあります。結果は候補を絞る材料として使い、境界の事例は人の目で判断します。

Q4. 登録された商標が後から取り消されることはありますか?

あります。商標掲載公報の発行から2か月以内は誰でも登録異議の申立てができ、利害関係人はその後も無効審判を請求できます。先行商標と類似だと判断されて登録が取り消されたり無効になったりした例があります。登録が認められたあとも、先行商標との関係は確かめておく価値があります。

Q5. 判断が分かれる名前と安全な名前の、どちらを選ぶべきですか?

事業の時期で決めます。名前への投資がまだなく、事業を止めたくないなら安全な候補を選びます。その名前で既に顧客に知られており、名前を変える損失が大きいなら、境界の事例でも出願して争う価値があります。候補を複数用意して同時に調査しておけば、どちらの結果にも備えられます。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

商標のことでお困りですか?

商標登録の出願・調査・侵害対応について、
弁理士が無料でご相談に応じます。お気軽にお問い合わせください。

ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘

コメントする