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小田原かまぼこの地域団体商標権侵害問題とは


1. はじめに

地域の特産品として親しまれている小田原かまぼこ。その商標をめぐって、法的な争いが起きたことがあります。

この問題は、地域団体商標制度の複雑さと、地域の伝統産業で商標権がどのように働くかを考えるうえで、参考になる事例です。弁理士の視点で、訴訟の経緯と教訓を解説します。

2. 小田原かまぼこ商標権侵害訴訟の概要

「小田原かまぼこ」は、小田原蒲鉾協同組合が地域団体商標として特許庁に登録している商標です(商標登録第5437575号、2011年9月9日登録)。

この商標権をめぐり、組合に加入していない地元の製造業者が「小田原かまぼこ」の名称を使用したことで、商標権侵害として訴えられました。

横浜地方裁判所は、被告の2社に先使用権を認め、原告側の請求を棄却しました。商標権者側はこれを不服として知的財産高等裁判所に控訴しましたが、2018年6月に和解で決着しています。地域ブランドを守る側と、長年その名称を使ってきた個別事業者の双方の事情が、正面からぶつかった事案でした。

3. 地域団体商標制度とは

地域団体商標制度は、2006年(平成18年)に創設されました。

通常、「地域名」と「商品の普通名称」を組み合わせた名前(例:「小田原」+「かまぼこ」)は、一般的な表記として、特定の個人や団体が独占することはできません。

しかし、地域が一体となって品質管理を行い、長年かけて築いたブランド価値を、無関係な業者に利用されてしまう問題がありました。そこで、一定の条件を満たす協同組合などの団体に限り、地域団体商標として登録できる制度が設けられたのです。

4. 争点となった「先使用権」

この訴訟で最も重要だったのは、先使用権の有無です。

日本の商標制度は先願主義を採用しています。先に特許庁に出願した者が権利を取得する仕組みで、使用期間の長さは関係ありません。長年使っていた商標でも、他者に先に登録されれば、原則として使えなくなります。

ただし、商標法には先使用権という例外があります。地域団体商標の出願前からその商標を使っていた事業者が、次の条件を満たす場合に認められます。

  • 地域団体商標の出願前から、その商標を使用していたこと
  • 不正競争の目的がないこと

ここで押さえておきたいのが、地域団体商標に対する先使用権(商標法第32条の2)は、通常の先使用権(同法第32条)よりも要件が緩和されている点です。通常の先使用権では「自分の商標が需要者に広く知られていること(周知性)」の立証が要りますが、地域団体商標に対する先使用権では、この周知性の立証が不要とされています。地域名を含む名称は、もともと地域内で広く使われているという実態をふまえた配慮です。

今回の訴訟では、被告がこれらの要件を満たしていたため、先使用権が認められました。

5. 地域の伝統産業と商標権の難しさ

小田原かまぼこの事例は、地域ブランド保護と個別事業者の権利のバランスの難しさを示しています。

地域団体商標制度は地域経済の活性化を目的としていますが、組合に加入していない事業者が、長年「小田原かまぼこ」の名称で事業を営んできたケースもあります。こうした事業者が突然その名称を使えなくなれば、地域産業全体にとってもマイナスです。制度が個別事業者を排除する道具になってしまっては、本来の趣旨から外れてしまいます。先使用権という例外が用意されているのは、こうした行き過ぎを防ぐためでもあります。

6. 事業者がとるべき対策

この事例から学べる教訓を挙げます。

一つ目は、使用実績の証拠を残すことです。カタログ、パンフレット、新聞広告、取引伝票など、日付が明確にわかる資料を保管してください。先使用権を主張する際には、使用開始時期と継続性を証明する資料が欠かせません。

二つ目は、地域団体商標の出願動向を確認することです。J-PlatPatなどで定期的にチェックし、自社に関連する商標が出願された場合は、速やかに対応を検討してください。

三つ目は、組合への加入を検討することです。最も確実な対策は、地域の協同組合に加入することです。組合員であれば、地域団体商標を正当に使用する権利が与えられます。先使用権はあくまで例外的な救済であり、立証の負担も残るため、可能であれば組合員として正面から使える状態にしておくほうが安心です。

7. まとめ

地域団体商標は、地域のブランド価値を保護する有効な制度です。一方で、組合に加入していない事業者との間で紛争が生じる場合があります。

小田原かまぼこの訴訟は、先使用権という例外がこうした紛争の調整弁として働くことを示しました。地域の特産品に関わる事業を営む方は、商標の使用実績を記録として残し、地域団体商標の動向にも目を配っておいてください。

8. よくある質問

Q1. 地域団体商標は個人でも出願できますか?

できません。地域団体商標を出願できるのは、事業協同組合、農業協同組合、商工会、商工会議所などの特定の団体に限られます。地域の共有財産としてのブランドを守るための制度だからです。

Q2. 地域団体商標が登録された後でも、先使用権は認められますか?

はい。地域団体商標の出願前から不正競争の目的なく使用していた場合、その名称を継続して使用する権利(先使用権)が認められます。小田原かまぼこの訴訟でも、この先使用権が決め手になりました。

Q3. 小田原かまぼこの訴訟は最終的にどうなりましたか?

横浜地裁で被告の先使用権が認められたあと、知的財産高裁に控訴されましたが、2018年6月に和解で終結しました。判決による白黒ではなく、双方が歩み寄る形で決着した点も、地域産業をめぐる紛争らしい結末といえます。

Q4. 組合に加入できない事業者は、名称をまったく使えないのですか?

そうとは限りません。出願前から不正競争の目的なく使ってきた実績があれば、先使用権によって使い続けられる可能性があります。ただし、立証の負担は使う側にあります。使用実績の資料を日頃から残しておくことが、いざというときの備えになります。

Q5. 先使用権が認められれば、その名称をずっと使い続けられますか?

先使用権が認められれば、従来の範囲で使用を続けられます。ただし、これは権利を「持っている」のとは違い、あくまで他人の商標権の効力が及ばないという立場にとどまります。事業を大きく広げたい、ブランドとして積極的に展開したいといった場合は、組合への加入や自社での別途の商標取得を検討するのが現実的です。

9. おわりに

小田原かまぼこの事例は、地域ブランドを守る制度と、長年その名で商売してきた事業者の事情が交差する、難しい問題を浮き彫りにしました。鍵を握るのは、やはり日頃の備えです。

当事務所では、地域団体商標の出願や、先使用権をめぐる対応についてご相談をお受けしています。地域の特産品に関わる事業で、商標の扱いに不安がある方は、お気軽にご相談ください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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