なぜ商標登録出願の商品や役務の選択に失敗するのか

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索引

初めに

特許庁に提出する商標登録出願の書類を作成するときに、商品や役務の選択に失敗する方がいます。今日も願書に記載する指定商品・指定役務を狭く絞り込むようにあるお客さまから指示がありました。この方は商品や役務の範囲を狭くすれば、費用も安く、かつ、審査にも合格しやすいと考えていることが分かります。しかし、これは実は正しくないのです。

(1)商標の区分は権利範囲を定める単位ではない

(A)商標の区分は特許庁の課金単位

特許庁に受理してもらう商標登録の願書を作成するときに、必ず記載する実体項目があります。それがこれです。

  • 登録を受けようとする商標
  • 商標を使用する商品役務
  • 商品役務が分類されている区分

願書に記載する商標の欄は一つだけです。この商標の欄に文字だけの商標を記載すれば文字商標になり、キャラクターの絵を貼り付ければキャラクター商標になります。

願書には商標を使用する商品や役務を指定しなければならないことになっています(商標法第5条)。これらの指定商品や指定役務は区分と呼ばれる45個の分類に分かれています。第1類の化学品から始まって、第45類の冠婚葬祭業まで45個に分かれています。

ちょうど、区分は都道府県で、指定商品指定役務は、それらの都道府県に属する市町村区等と同じ関係になっています。

区分一つひとつは特許庁の課金単位になっていて、区分数が増えれば特許庁に支払う印紙代がほぼ比例して増えます。

(B)商標願書には具体的な指定商品や指定役務を記載する必要がある

商標の願書には商標法の類似商品・役務審査基準に沿って、明確な商品や役務を記載する必要があります。ここの記載が不明確の場合、審査官から拒絶通知がきます。

例えば、雑貨、グッズ、日用品等の記載は特許庁では認められていません。審査官から不明確との指摘を受けないように、具体的な記載にまとめる必要があります。そしてもし願書に記載していなかった商品や役務があった場合は、商標権の権利範囲から漏れる危険があります。

(C)指定商品や指定役務の数は費用の課金単位ではない

ここを誤解されている方が多いのですが、指定商品や指定役務の数が増えると、特許庁に支払う印紙代が直ちに増えるわけではないです。

同じ区分に属する指定商品・指定役務で互いに類似するなら、記載数がいくら増えても印紙代は増えない

これから商標権を取得して、商標の権利を得る際に、その商標に使用する指定商品とか指定役務の数が1000個あろうが、10000個あろうが、同じ区分に属していて、互いに類似する範囲にあるなら、願書の記載頁にかかわらず、特許庁に支払う印紙代は同額です。

ここでのポイントは次の通りです。

指定商品や指定役務の数が多くても1区分に収まる同じ類似範囲なら課金単位は一つで済む

特許庁の課金単位は指定商品や指定役務の数ではなくて、区分の数です。このためいくら指定商品や指定役務の数が多くても、それらが全て一つの区分に収まるなら、特許庁に支払う印紙代は一単位で済みます。

これに対して、指定商品や指定役務の総数は少ないのだけれども、複数の区分にまたがる出願をした場合は、その区分の数にほぼ比例して、特許庁に支払う印紙代が高くなります。

区分が違っても、互いに類似する指定商品・指定役務が存在する

区分は指定商品・指定役務同士の類似範囲を定めるものではありません(商標法第6条第3項)。

このため、違う区分に、互いに類似する商品役務がちらばっている場合があります。例えば、商品としてのビールは商標法の区分の第32類に入りますが、酎ハイは第33類に入ります。そしてビールと酎ハイは互いに商品として類似する関係にあります。

区分が同じでも、互いに類似しない指定商品・指定役務が存在する

ここも商標登録になじみがない方が見落としやすいところです。例えば、商標法の区分の第32類を願書に記載して、指定商品としてビールについて商標権が得られたなら、第32類の区分の範囲全部の商標権が得られたと考える人がもしいるなら、それは誤解です。

仮に第32類の区分のうち、指定商品としてビールだけを含む商標権が得られた、とします。この商標権の効力はビールに及びます。しかし、ビールとは類似しない、第32類に記載のある清涼飲料、果実飲料、乳清飲料などには商標権の効力が及ばないです。

実際に商標登録された指定商品や指定役務と同一か類似する商品役務に商標権は働きますが、登録された指定商品・指定役務と関係のない商品役務については、他人が無断で使用しても、商標権の効力で止めさせることができないです。

出願する段階ではビールだけでよい、と考えていたとしても、そのビールの売り上げが伸びてきた際に、他人にビール以外の清涼飲料等の権利を、同じ商標について取得されてしまうと困ると思います。もし出願するときにビールだけでなく清涼飲料等の同じ区分の飲料品を含めておけば、追加印紙代を支払うことなく、ビール以外の指定商品についても商標権が得られるチャンスがあったのです。

ところが一度願書を特許庁に提出してしまうと、その願書に後から抜けのあった商品役務を追加することは、特許庁では認めていません。

追加費用を払う必要がないなら、使う予定のある指定商品・指定役務は取り切る方針で

必要もないのに高いお金を払って広い商標権を取得する必要はないです。しかし追加料金を払わずに取得できる権利範囲があるなら、将来使用する予定のある指定商品指定役務も含めて、一回の出願で取り切ってしまうのがよいです。

後から取ればよい、と考えた場合、また倍額の料金を払って一から取得しなければなりませんし、権利を確保しなかった部分を他人に取られてしまうとまずいから、です。

(B)商標の区分の数は権利の広さを示すものではない

上記の通り、商標法における区分の考え方は、商標を使用する指定商品や指定役務がどの分類に属するか判断する基準であり、区分の数で費用が決定される仕組みになっています。

つまり、商標法の場合は、区分は課金単位の位置づけになっています。

このため指定商品がたった一つずつの場合でも、それが複数区分に渡って権利申請された場合にはほぼ区分数のかけ算で商標登録に要する費用が高くなります。

一つの出願について区分数を少なくすれば、商標登録に必要とされる費用は少なくなる関係になっています。

商標権の広さは区分数で決まるのではない点に注意してください。

(2)指定商品指定役務の数を減らしても審査に合格しやすいとは限らない

(A)指定商品・指定役務の数を減らしても審査合格率が上がらない場合がある

誰かがあおっているのかも知れませんが、指定商品や指定役務の数を減らすように要望される方がいます。

しかし、指定商品や指定役務の数を減らしても、費用も変わらないし、審査の合格率も変わらない場合があります。

例えば、ある商標について指定商品として「バナナ、リンゴ、イチゴ」を選択して商標登録出願した、とします。

ところが商標審査の件、先行登録商標の指定商品として「バナナ」の記載があるものが既に存在した、とします。

この場合、自分の出願からバナナの記載を補正で削除して、「リンゴ、イチゴ」を残せば審査に合格できるか、といえば、できないです。

上記の場合ではバナナという同一の商品を削除しましたが、バナナと類似するリンゴもイチゴも削らずに残しています。この場合はリンゴもイチゴもバナナとは同一ではありません。しかし、それぞれが同じ果物に属する互いに類似する商品なので、リンゴやイチゴが残っている限り、類似する商品にまで権利が及ぶ商標権と衝突するので審査に合格できません。

もし記載を少なくするなら、商標法の場合は同一区分内の指定商品や指定役務のうち、互いに類似するものの一部を削除したところで、費用は変わりませんし、審査の合格率も高くなるわけではありません。

削除するなら、同一区分の中で互いに類似する指定商品や指定役務をまるごと削除する必要があります。

(3)願書の指定商品役務の記載には類似非類似品が混在する

(A)願書には類似の指定商品役務と非類似の指定商品役務が混在する

商標登録になじんでしまえば全く疑問に思わないのですが、商標登録出願の願書には類似の指定商品役務と非類似の指定商品役務が混在したまま、区分別に整理されて記載されています。

互いに類似する指定商品役務の場合、その記載が少ない場合でも多い場合でも、具体的には同一区分にある互いに類似する指定商品役務が1個の場合と1万個の場合との法律上の扱いは同じです。

同一区分内の互いに類似する指定商品指定役務の集合は、費用も同じですし、審査の通りやすさも同じです。

ですので、商標の権利申請の際には、願書にどのような「互いに類似しない」商品役務が指定されているかを確認する必要があります。

互いに類似しない指定商品指定役務が多く含まれる願書であれば、散弾銃のように広く権利の効力が及び、簡単には他人がまねできる範囲がなくなります。

これに対して互いに類似する指定商品指定役務が多く含まれる願書であれば、それに記載された指定商品指定役務と類似しない商品役務については権利申請をしていないわけですから、他人に無断で使用されても文句がいえないことになります。

(4)まとめ

商標登録出願の願書のチェックポイントで見逃してはいけないのは、同一料金で取得できるはずの、必要になるであろう商品役務に漏れがないかをチェックすることです。

特許庁に願書を提出する段階では、権利は狭くても商標権が得られればよい、と思うでしょう。

しかし商売がうまくいき、登録商標を使った商品役務の売上が好調になったとき、他人に権利取得していなかった指定商品指定役務の部分を奪取されて困ることになります。

追加料金を支払わなくて済む範囲で、指定商品や指定役務の権利取り忘れがないか、特許庁に願書を提出する前に確認するようにしましょう。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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