野球シューズの商標登録でスポーツ以外の靴の権利入れ忘れが5000万円分近く発生か

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索引

初めに

2020年発行の商標公報を調べてみると、その年に商標登録された商標権の中に、不自然な権利取得状況を見ることができます。

具体的には商標登録のプロが権利申請したなら起こすはずのない権利漏れをあらゆる分野で観測することができます。しかもその数が半端なくて500件、1000件単位で見つかります。

本来なら最初に特許庁に提出した願書に記載しておけば、無料で権利範囲に含めることができたのに、まるであえて権利範囲から外したかのようなざるの様な権利取得漏れが、2020年になって、急に見つかります。

今回は野球シューズ等のスポーツ用シューズの商標登録について、権利範囲にそれ以外の靴を指定し忘れた事例を取り上げます。


(1)野球靴の商標登録で2020年の一年だけで前年度比1200件約5000万円分のスポーツ以外の靴の権利入れ忘れが発生


(A)なぜ野球用シューズの商標権の取得の際に、無料で権利範囲に含めることができる靴の権利を落とすのか

うっかりミスのレベルではなく、たった一つのアイテムに着目するだけでも2020年の1年だけで数千万円分単位での商標権の権利取得漏れが見つかります。

権利を取得すれば、追加料金が発生する等の特別な理由があれば別ですが、調べてみてもそんな特別な理由が発生しない範囲で、まるでわざと権利範囲から外した、まるでざるの様ように権利範囲に漏れがある事例がいくらでもみつかります。なぜこんなことをするのでしょうか。

今回調べた野球シューズ等のスポーツシューズの事例では、普通の靴を商標権に含めるのを忘れたため、2020年のたった一年だけでその抜け落ちた権利部分を埋め直すとすれば、5000万円分近くの費用が発生します。この5000万円分は特許庁に支払う印紙代だけをカウントしたもので、それ以外の費用を含めると被害額はさらに膨らみます。最初に特許庁に提出した願書に記載を忘れなければ、発生しなかったはずの損失です。

なぜこんなことが生じるか、ということ、商標登録のことに詳しくないお客様の立場からすれば、野球靴の商標権に普通の靴の権利が抜けていることは事前に教えてもらっていないからではないか、と私はにらんでいます。

ここの隙間が突かれた形です。お客さまが野球用のシューズの権利が欲しい、といったときに、その通り、野球靴の商標権を取得した場合でも、野球用シューズに加えて、普通の靴の権利を含む商標権を取得した場合でも、お客さまからもらえる費用は同額です。野球靴の権利にスポーツ用以外の靴の権利を追加しても追加料金は発生しないからです。

だったら、お客さまが野球用シューズの商標権が欲しい、といったときには、そのまま野球シューズの商標権を提供した方が、商標を調べる範囲も野球用シューズのところだけで済みますし、野球用シューズだけであれば簡単に願書を作成できます。

また野球用シューズ以外に、普通の靴まで権利範囲を広げると、先行登録商標との権利衝突が生じる可能性が高くなります。

他人の先行商標権と権利の抵触が生じると、審査に合格するために特許庁の審査官と折衝する必要があります。審査合格まで時間がかかるため、短時間で多くの商標登録出願を回すことができなくなります。

更に野球用シューズ等のスポーツシューズだけに権利範囲を狭く限定することにより、狭くした分だけ他人の先行商標権に抵触する可能性が下がるわけですから、特許庁審査官との折衝をパスでき、簡単に商標登録され、審査不合格による合格手数料の取りはぐれを防ぐことができます。

お客さまも審査に早く合格できればよころんでくれますので、自分は儲かるし、お客さまは喜んでくれるし、権利範囲を狭くすればするほど理想的な状況になります。

(B)商標権に権利漏れがあってもばれにくい

仮に野球シューズのブランドが大ヒットした、とします。このときに、こちらの登録商標と同じ商標で、ライバルにスポーツ用以外の普通の靴の商標権を取得されてしまった場合、相手側の販売をストップさせる手段がないことになります。最初に権利を確保しなかったからです。

最初に野球靴の商標権を取得する際に、忘れずにスポーツシューズ以外の普通の靴について権利範囲に含めておけば、このライバルがごっそり持っていく売上は、最初に商標権を取得した商標権者が独占できたはずです。しかもスポーツシューズ以外の靴について権利を取得するのに追加料金は必要ないです。

なぜ靴のことを今回取り上げたかというと、商標登録の際にスポーツシューズの商標権を取得しようとした場合、スポーツシューズの権利が早く安く取れるかどうかに関心が行くため、スポーツシューズ以外の靴まで気がつかないからです。

スポーツシューズの商標権が取れるなら、後は別にどうでもよい、と考えてしまうかもしれません。しかし野球用シューズ等のスポーツ用シューズだけに権利範囲を狭く限定せず、スポーツシューズ以外の靴も含めて靴の権利を最初に押さえておくだけで、野球用シューズ以外の靴全体を逆に権利範囲に追加費用なしの無料でカバーできてしまうのです。こういった事情をよく理解した上で、無料で権利に追加できる段階で、どこまで権利を取得するのかプロとよく相談する必要があったのです。

事前にこういったきちんとした権利内容検討がなされていないから、2020年のたった一年だけで、前年度比で1200件、約5000万円近くの権利申請漏れが発生する結果になっているのではないでしょうか。


(2)本当に野球靴等の特殊な靴だけの権利に絞る必要があったのか

(A)運動用の特殊な靴だけに権利を絞るのは、はめられパターン

靴を売る、といっても、野球用シューズの様に、運動用の特殊な靴だけではなく、普通のスニーカーとかビジネス用の靴とかも扱うのではないでしょうか。

野球靴の権利を取得する際にスポーツ用以外の靴の権利のことに気がつけば、運動用の特殊な靴だけの範囲の権利を取るのは危ないことに気づいたはずです。ところがそういった一歩踏み込んだ検討がなされた様には見えないのです。

Fig.1 各年度に発生した商標権のうち、権利範囲に野球靴等の特殊な靴を含むが無料で追加できる普通の靴の権利が抜け落ちた権利発生数の推移を示すグラフ

各年度に発生した商標権のうち、権利範囲に野球靴等の特殊な靴を含むが無料で追加できる普通の靴の権利が抜け落ちた権利発生数の推移を示すグラフ


図1のグラフを見れば明らかなように、2020年になって、急に権利漏れ疑惑のある商標権が前年度比で1200件程度発生しています。

野球用靴だけに最初に権利範囲を絞り込んでしまうと、特殊な靴以外の普通のスニーカーとかビジネスシューズの権利が商標権からごっそり抜け落ちます。この抜け落ちた権利範囲を後から補うためには、特許庁に支払う印紙代だけで1件当たり4万円が必要です。つまり、全体で5000万円近くの権利申請漏れが、たった1年で、たった一つのアイテムだけで発生しています。

最初は野球靴だけでよい、と考えていたお客さまも、野球シューズのブランドがヒットすれば、野球靴以外の靴についても販売することを考えるのではないでしょうか。

はじめに野球用シューズ等のスポーツシューズだけでなく、運動用の特殊な靴以外に普通の靴を含めても追加料金が発生せず無料で取得できたのですから、無料で取得できる段階で、必要な権利は取り切るのがよいです。

というのは、後になって取得すればよい、と考えていた場合、他人に普通の靴の部分の権利を取られてしまう危険があるからです。

そして最初に無料で権利を取得できたのに、それを怠ったために他人に取られてしまた権利を取り戻すために数十万円の追加費用が特許庁の審判請求手続きで必要になる場合もあります。しかも数十万円払って権利を取り戻すことができればよい方で、お金を払っても払い損で、権利を取り戻すことができないこともあるのです。

手続き代行業者側視点でみれば、最初に野球靴の権利に普通の靴の権利を併せて提供したところで一回分の手数料しかもらえません。

ところが最初に野球シューズの商標権だけを提供しておけば、後になってから普通の靴の商標権も欲しい、と言ってもらえるなら二倍の手数料をもらうことができます。

さらには商標権トラブルが発生すれば数十万円単位の手数料をもらうことも可能になります。権利範囲を狭く絞る、というのはマッチポンプで手続き代行業者側が儲けることができる禁じ手の様なものになっている裏事情を理解しておく必要があります。


(3)特許庁申請前にプロと必ず相談すること

(A)プロが権利申請漏れを見落とすはずがない

商標登録のプロであれば、権利申請漏れがある願書を見れば、どこがおかしいか一発でわかります。それにもかかわらず、図1に示されるような、明らかな権利漏れが2020年のたった1年だけで、急に5000万円分も増えるのはあまりにも不自然過ぎます。

おそらく、多くのお客さまは本当のプロとは話をさせてもらっていないことになります。

こんな内容のすかすかな、ざるの様な願書を提出することは、プロなら、恥ずかしくてできないからです。

それにもかかわらず、ざるの様な商標権が発生する理由は、願書の内容に興味がない者がお客さまの対応に当たっている様に私には思えるのです。

このままでは、後になってから大変になります。商標登録の際には、無料で追加できる範囲があるのかを必ず聞いてください。

その中に、自分が必要とする権利が隠れてないか検討してください。

今までは商標登録のプロがしっかり内容を確認してくれていましたが、2020年からはあきらかに手抜きのざるのような商標権が大量生産されています。きちんと主張しなければ、養分だけを吸い取られてしまう情報弱者になってしまいます。

本当にこの内容で自分の希望する商標権が取得できるのか、商標登録のプロに直接聞いてください。担当の弁理士の名前は、特許庁に出願する願書に記載されています。この弁理士と話をせずに特許庁に出願するのは極力さけるべきです。


(4)まとめ

図1に示したグラフは昨年2020年に商標権になったものをはじめとする過去のものです。現在進行形で権利範囲に漏れがある商標権が大量発生していることが懸念されます。この様な権利申請漏れにより、後から追加費用が必要になったり、商標権侵害トラブルに巻き込まれてしまったりしないよう、願書に記載されている弁理士に直接内容を確認してください。

商標登録のプロであれば、願書をひと目見ればどこがおかしいかわかります。願書に記載されいている代理人に願書をきちんと確認するように促すだけで、図1の様なひどい状況は少なくなるはずです。


ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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