登録商標をアレンジして使ってもいいですか?

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1.不正使用による商標登録の取消しの審判

 登録商標とは「商標登録を受けている商標」を指します。商標登録出願後、願書に記載した商標を変更することは、原則許されず、商標登録出願の際、特許庁に提出する願書の「商標登録を受けようとする商標」の欄に記載した商標そのものが登録商標となります。願書には、登録商標として使用する商標を記載するのが望ましいといえます。

 商標権者は、登録商標について、指定商品等における独占的な使用権が認められています。他方、登録商標と類似する商標については、その使用を禁止する権利が認められているにすぎません。登録商標と類似する商標についても、商標権者は、通常、使用することができますが、これは事実上のものにすぎず、他人の権利と抵触しないことが条件です。

 商標権者が故意に登録商標と類似する商標を使用し、他人の商品役務との混同を生ずるなどした場合には、登録商標の不正使用と判断されることになります。登録商標の不正使用は、一般公衆の利益を損なうものです。登録商標の不正使用を行う商標権者に対する制裁のため、商標法は商標登録の取消しの制度を設けており、登録商標の不正使用が認められれば、登録商標は取り消されることになります。取消しの審判の請求は誰でも可能です。

2.裁判例等

(1)AfternoonTea事件

 実務上、カタカナ表記とローマ字表記とを併記した上で、商標登録を受けることが広く行われています。この場合、登録商標は、あくまで二段併記したものであるものの、カタカナ表記とローマ字表記のいずれか一方のみ使用する例も、多く見受けられます。また、登録商標は特徴のない文字である一方、実際に使用される商標は特徴的なロゴタイプであることもままあります。
 このように、登録商標を変更して使用することに法的に問題がないといえるかは、個別に判断する必要があるものの、「AfternoonTea事件」においては、商標権者に不正使用が認められ、商標登録は取り消されるに至りました。

AfternoonTea事件の商標

 登録商標はAであるところ、商標権者は、平成5年3月から、若い女性向けのシャツなどの衣類に、Bの商標を使用していました。他方、請求人は、昭和62年から、Cの商標を使用して生活雑貨を販売していたところ、裁判所は、商標権者がBの商標の使用を開始した時点において、請求人のCの商標は若い女性の間では周知のものであったと認定した上、出所の混同が生じると以下のとおり判断し、商標登録を取り消す方向の判決を下しました。Bの商標のロゴタイプがCの商標のロゴタイプに不自然なほど一致していることに照らせば、妥当な判断といえます。

被告が請求人使用商標に形態が極めて近似した被請求人使用商標(B)を若い女性向けの「シャツ、ブラウス、ワンピース、パンツ、スカート、セーター、カーディガン、マフラー、靴下」に使用すれば、被告が単に「AFTERNOONTEA」の商標を使用することによって当然生ずる出所の混同のおそれを超えて、その商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品ではないかとその出所について誤認混同されるおそれがあるものと認められる。
(東京高判平成10年6月30日平成9年(行ケ)第153号)

(2)PROGREEN事件

 横一連に記載された登録商標につき、実際に使用する際は、段違いのものとしたり、構成部分の一部の大きさを変えたりする例も、多く見受けられます。商標が横一連に記載されたものである場合、全体を一体のものとして認識する方向に作用しますが、段違いのものとしたり、構成部分の一部の大きさを変えたりすると、商標の一部を抽出して認識しやすくなるため、登録商標自体は他人の登録商標等に類似しなくとも、実際の使用商標が他人の登録商標等に類似するという事態が生じてしまいます。
 「PROGREEN事件」においては、かかる構成の変更が原因となって、登録商標が不正使用により取り消されています。

PROGREEN事件の商標

 登録商標はaであるものの、使用商標はbでした。「multi」は「ProGreens」と比較してかなり小さく、「ProGreens」の部分が看者の注意を引くように構成されています。他方、請求人は、引用商標cを保有しています。裁判所は、使用商標bと引用商標cとが類似すると判断した上、以下のとおり、商標権者と請求人との間の販売態様の相違があるとしても、出所の混同が生じるとして、商標登録を取り消す方向の判決を下しました。

・・・そして,被告製品が薬局・薬店において対面販売されているのに対し,使用商標を付した原告の商品は,インターネットを通じて販売されるものであって,両者は販売態様,方法を異にしているから,そうした販売の実情に通じた薬局・薬店等の取引者であれば,使用商標が本件指定商品について使用されていたとしても,それが被告の業務に係る商品であるとの誤認,混同を生ずるおそれが高いとまではいえないものの,使用商標を付した原告の商品はインターネットを通じて一般の需要者に対して直接販売されるものであり,引用商標の存在については認識しているが,上記のような販売の実情に通じていない一般の需要者にあっては,上記検討した使用商標と引用商標との類似性に照らして,インターネット上で接した原告の商品について,被告の業務に係る商品であるとの誤認,混同を生ずる具体的なおそれがあるものといわなければならない。
(知財高判平成24年12月26日平成24年(行ケ)第10187号)

3.おわりに

 登録商標を使用する場合、登録を受けた構成に基づき使用することが基本といえ、登録商標の構成と異なる商標を使用するのであれば、当該商標についても、別途出願の上、商標登録を受けた上で使用することが望ましいといえます。

 他方、商標法の解釈によれば、登録商標の使用を認めるには、登録商標と完全に一致する商標を使用する必要はなく、登録商標と社会通念上、同一のものを使用すれば足りるとの見解が一般的です。また、商標登録の手続や登録商標の維持にはコストを要するため、あらゆる商標につき商標登録を受けるのは現実的とはいえない面もあります。

 登録商標をアレンジして使用する場合、変更の程度や他人の商標などに留意しつつ、商品役務の出所の誤認混同を生じさせないよう注意を払う必要があります。

ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247

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