1. はじめに
商品や店舗名等の商標を特許庁に登録しておかないと、後から競業者にこちらの商標を取られてしまう場合があります。無事に取り返すことができる場合もありますが、そのために最終的に50万円、100万円がかかる場合も普通にあります。
お金を払って取り戻すことができればまだ幸運で、お金を払っても自分の商標を手元に取り戻せない場合もあります。
それどころか、他人にこちらの商標を先に登録されてしまうと、こちらが横取りされた商標権を侵害する立場になるので、裁判で損害賠償請求や差止請求を受ける場合もありえます。最悪、横取りした相手に売上に応じたライセンス料を毎月支払いながら自分の商標を使うはめになります。
事前に知っていれば、先に手を打てるのでこの様なひどい状況にならないです。が、商標登録制度をしらなければ合法的な乗っ取りを受ける場合もありえるのです。
今回は商標登録する上で理解がかかせない商品と役務の関係について説明します。
2. 商標登録の説明
商標登録は、商品や役務を指定して特許庁に商標登録出願することにより、審査を経て登録により商標権をえる行政手続のことをいいます。
商標を使うだけでは商標権者になることができません。世界中で自分が最初に特定の商標を使い始めた場合であっても、特許庁に権利申請の手続をしていなければ、他人にこちらの商標を権利化されてしまう場合があります。
知らなければ、ある意味、恐ろしい制度ですが、知っていれば、ライバルよりも一歩先に前に出ることができ、優位な立場に立つことができます。
3. 商品と役務の違い
商標を特許庁に登録するといっても、商標だけを登録するのではないです。特許庁に権利申請する商標を、どの商品・役務に使用するかを指定して、申請手続をする必要があります。
商標を使用する商品や役務を指定せず、オールマイティに商標を登録することができないことは記憶してください。
3-1. 商標登録の際に指定する区分とは
特許庁に商標登録出願をする際には商標だけでなくて、その商標を使用する商品役務が属する区分と、その区分に属する商品・役務を具体的に列挙して記載する必要があります。
商標法における区分は、商品が入る第1類から第34類までの区分と、役務が入る第35類から第45類までの合計45の区分があります。
一区分を特許庁に登録する特許庁の印紙代は合計34100円ですので、45区分全部を権利化しようとすると、特許庁に支払う印紙代の総額は、ざっくり150万円程度になります。
ただし区分は特許庁に手続費用を支払う単位です。区分だけの指定は認められず、商標登録出願の願書には、区分ごとに属する商品や役務の内容を具体的に列挙して記載しなければなりません。
3-2. 商標登録の際に指定する商品とは
願書に記載する商品は、実際に商標権者がお客さまに商標を表示して提供する商品です。
例えば、商品としてりんごを売るなら、第31類の「果実」を指定します。また凍った状態のりんごを売るなら第29類の「冷凍果実」を指定します。さらにりんごが加工されたジャムを売るなら第29類の「加工果実」を指定します。
またりんごそのものではなく、りんごジュースを販売するなら、第32類の「果実飲料」を指定します。
3-3. 商標登録の際に指定する役務とは
願書に記載する役務は、商品とは異なります。商品の場合は実際にお客さまに提供する現物やダウンロードできる電子データ等を指します。これに対し役務は、例えば、散髪の理容とか、冠婚葬祭業みたいに直接商品を販売するのではないけれども、お客さまに業務を提供するものをいいます。
美容・医業・冠婚葬祭業の役務は、商品を売る場合とは違うので、直接商標を貼ることができません。このため役務の場合は、実際にお客さまに業務を提供するものに使うものに商標を表示する形をとります。
4. 商標登録する際の商品と役務の関係
商標権の権利範囲は、審査に合格して登録された際に指定されている商品役務に関係する範囲で決まります。
このため、例えば、ある商品を指定して商標権を取得しても、役務を指定しないと役務の権利については権利は発生していないので、他に関係する商標権がなければ、他人は自由に役務を使用できることになります。
5. 商品と役務の具体的な事例
例えば、商品として第30類の「弁当」を指定したとします。この場合に役務としての第43類の「飲食物の提供」を指定しないと、他人は自由に同じ内容の弁当をイートインで提供できてしまいます。
つまり、第30類の「弁当」はテイクアウトの商品であり、第43類の「飲食物の提供」はイートインの役務になります。
この様に相互に関連する商品と役務については対にして権利化しておかないと、権利を取得していない側を他人に取得されてしまい、後で困ることになります。
6. 成功するための商品・役務の考え方
商標法に規定される商品役務は、他人に実際に提供するものです。このため自社で使うものには原則として商標登録の際に指定する必要がありません。本業の側で正しい商品や役務について権利化しておけば、他人は本業について商標権を侵害する様な商標を使えなくなるからです。
6-1. 自社内だけで使う商品を指定する必要はないです
商標登録の際に商品指定で失敗する事例の多くは、自社だけが使う商品を指定する場合です。例えば、名刺とかパンフレットとか。
名刺とかパンフレットに商標権を取得する必要があるのは、名刺とかパンフレットをお客さまに専業で販売する場合です。
6-2. 自社内だけを対象とする役務を指定する必要はないです
例えば、自社の商品だけを宣伝する場合、広告業の役務を指定する必要はないです。自社の商品を指定しておけば、他社はその商品を販売できないからです。広告業について権利化が必要なのは、お客さまの商品を宣伝広告する広告業者の場合です。
6-3. 実際に提供する商品役務を中心に権利の充実化を図ります
心配しだすと、あれもこれも、ということになり、費用がいくらでも膨らんでしまいます。実際にお客さまに提供する商品役務を中心に、必要十分な範囲について権利を取得することを検討します。
7. まとめ
どの商品役務を指定するかは、結局自社がどの様な商品や役務を自分のお客さまに提供するかによります。自分がお客さまに提供する商品役務は、現時点で判明している場合は分かりやすいですが、決定されていない場合にはどこまでカバーするか悩むと思います。
この場合は、これを他社に取られたらこちらが動けなるという商品役務があると思います。ここを押さえるのは絶対です。この重要な商品役務を取得する際に、無料で追加できる範囲でカバーしておけばよいか、と思います。
8. 商品と役務の関係についてのよくある質問
Q1: 「商品」と「役務」の違いは何ですか?
A1: 「商品」は物理的な製品やデジタル製品を指します。これに対して「役務」はサービス提供行為を指します。例えば、コーヒー豆を販売するのが「商品」、それを使ってコーヒーを提供するのが「役務」になります。
Q2: 商標登録する際に、商品と役務の関係性はどう重要ですか?
A2: 商標登録を行う際には、願書に記載する商品や役務が具体的に何かを明確に記載することが重要です。自社のビジネスが他者と混同されないように保護するためであり、登録区分の数で費用の総額にも影響を与えます。
Q3: 一つの商標で複数の商品や役務をカバーすることは可能ですか?
A3: 可能です。ただし、それぞれの商品や役務が明確に記載され、それぞれの商品または役務が適切な区分に分類される必要があります。複数のクラスにまたがる商品や役務を登録する場合は、区分数に応じた費用が発生します。
Q4: 商品や役務の記載を間違えた場合、どのような影響がありますか?
A4: 商品や役務の記載を間違えると、商標の保護範囲が不適切になり、権利侵害が生じたときに適切な対応ができなくなる可能性があります。また、記載の変更や追記は特許庁では認めていません。
Q5: 商品と役務の適切な説明や分類の方法を学ぶにはどうすれば良いですか?
A5: まずは特許庁のウェブサイトで提供されている情報を確認することをお勧めします。また、専門家の助けを借りることも一つの方法です。弁理士や弁護士に、適切な商品や役務の説明や分類方法を指導してもらえます。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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