(1)商標権侵害の警告
商標未登録のリスク
ビジネスを展開する際、他社の商品やサービスと自社のものを区別するために「商標」を使用します。商標はビジネス活動に欠かせない存在ですが、特許庁で登録せずに使う場合、他社の商標権を侵害するリスクが発生します。
「商標を勝手に使っても大丈夫では?」と考える人もいるかもしれません。しかし、商標権を持つ第三者の権利を侵害すれば、免責されることはほぼありません。これを避けるためには、商標登録を済ませることが最も安全な方法です。
特許庁で商標登録を行うと、商標が第三者の商標と類似していないか審査され、登録された商標は他社のものと区別されることが認められます。これにより、商標権侵害のリスクを大幅に減らすことができます。
しかし、現実としては、多くの企業が商標登録を行わずに商標を使用しているのが現状です。2023年には、約3万社の中小企業が商標登録出願を行いましたが、これは全体の1%にも満たない数字です。商標登録の重要性がまだ広く認識されていない現状がここに表れています。
警告を受けた場合の対応
他社の商標権を侵害していると判断された場合、まず警告が届きます。この警告は、メールや手紙、内容証明郵便などで送られてくることがあり、弁護士や弁理士を通して送られることもあります。
警告の内容
通常、以下の内容が含まれています:
- 登録商標の番号
- 使用している商標が侵害に該当するという主張
- 商標使用の即時中止の要求
場合によっては、販売数量の報告やライセンス交渉のオファーが含まれることもあります。
確認すべきポイント
警告を受けた際には、次のステップで対応しましょう:
1. 登録商標の確認
警告に記載されている商標登録番号を使い、特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で商標権者の情報を確認します。ここで、警告内容と実際の登録情報に矛盾がないかをチェックします。
2. 自社の商標使用状況の確認
警告された商標が、具体的にどの自社商品やサービスに関連しているのか確認します。そして、その商品の販売数量、販売額、販売先なども詳しく調査することが必要です。
(2)専門家への相談
1. 専門家への相談と日程調整
警告を受け取った後、まずは基本的な内容を確認し、次にどのように対応するかを検討する必要があります。焦って商標権者に直接連絡することは避けましょう。商標権者の主張が正しいとは限らず、事実関係や法的な問題点を整理することが重要です。このため、専門家への相談が推奨されます。
専門家との相談方法
事実が単純な場合、メールや電話で相談できることもありますが、基本的には対面での面談が望ましいです。面談を希望する場合、通常の法律事務所では事前にアポイントメントが必要です。警告には回答期限が設けられていることが多いため、すぐに専門家に連絡し、日程を調整しましょう。
もし、回答期限が短い場合(1週間以内など)、対応に時間がかかる旨を商標権者に事前に伝えておくとよいでしょう。期限を延ばしてもらえる場合もあります。
2. 専門家との面談に必要な資料の準備
面談に臨む際は、関連する資料をすべて持参しましょう。警告書の写しはもちろん、商標の使用状況を示す書類や、商標権者とのやり取りがあった場合は、それに関連する書類も持っていくと役立ちます。
また、重要と思われる資料については、面談前に事務所へ送付しておけば、当日の相談がよりスムーズに進みます。専門家に警告への対応を依頼する際は、随時必要な資料の提供を求められることがあるため、準備を怠らないようにしましょう。
(3)商標権者等への回答と対応
1. 対応方針の決定
専門家との相談を踏まえ、どのように対応するかを決めます。商標権者の主張を受け入れて商標の使用を中止する場合も、反論する場合も、必ず商標権者に正式な回答をする必要があります。
自社対応か、専門家対応か?
回答は、自社で行うことも可能ですが、商標権者との間で争う余地がある場合や、複雑な問題がある場合は、専門家に依頼する方が安全です。例えば、専門家との相談の結果、商標の使用中止が避けられないと判断された場合を除き、専門家に対応を依頼するのが無難でしょう。
2. 反論への対応
商標権者の主張に反論する場合、再度、商標権者側から反論の書面が届くことが一般的です。このやり取りの中で、歩み寄りの余地が出てくれば、交渉が進む場合もあります。こうした交渉が発展する可能性も考慮し、専門家にその対応も依頼するかどうかを検討しておくと良いでしょう。
3. 裁判の可能性
万が一、商標権者との交渉が決裂した場合、最終的には裁判で決着をつけることになります。裁判は時間も費用もかかるため、争うと決めた場合は、そのコストを十分に考慮することが重要です。
このように、商標権者からの警告に対しては冷静に対応し、必要に応じて専門家の力を借りることが、ビジネスを守るための最善の方法です。
(4)費用
1. 費用の目安
商標権侵害に対応する際、まず費用を把握することが重要です。一つの考え方ですが、企業の法務部専門スタッフを派遣してもらって、専任させる費用を念頭におくことができます。企業の法務部専門スタッフを派遣してもらう場合、以下の計算式で費用の目安を考えることができます。
費用目安
臨時雇用する人数 × 雇用期間 × 単位時間あたりの雇用費用
これに加え、弁護士に依頼する場合の費用も頭に入れておくとよいでしょう。
2. 弁護士への依頼を早めに検討
弁護士に依頼すると費用がかかるため、最初は避けたいと考える人も多いです。しかし、後に訴訟に発展した場合は、最終的に弁護士に依頼する必要があります。そのため、最初から弁護士に相談しておけば、回り道せずに済む場合も多いです。長期的な視点で、弁護士への依頼を検討しましょう。
3. 相談費用
警告を受けて弁護士に相談する場合、一般的な相談費用は以下のようになります(消費税別)。
事務所における相談業務の費用(面談) | メールによる相談業務の費用 |
---|---|
30,000円/1時間以内 | 10,000〜20,000円/1往復(※通常の分量) |
商標権の問題は複雑なケースが多いため、基本的には面談が推奨されます。しかし、遠方の場合や事実関係がシンプルな場合、メールでの対応も可能です。メールによる相談は、通常1~2万円で済みます。
4. 回答書作成費用
弁護士に商標権者への回答書の作成を依頼する場合、費用の目安は次の通りです。
回答書の作成・送付 |
---|
80,000~円/1通 |
回答書は内容証明郵便で送付するため、実費も別途かかります。
5. 交渉事件・裁判の費用
商標権者と交渉で解決する場合、交渉事件として弁護士に依頼することになります。交渉事件の費用は、着手金と報酬金からなり、事件の経済的利益によって変動します。移動が伴う場合、日当や交通費なども追加で発生します。
商標権侵害のケースでは、初期の段階で経済的利益を正確に算定するのが難しいことが多いため、案件の難易度や依頼者の希望に応じて、個別に見積りが提示されます。裁判の費用も同様に、案件ごとの内容を踏まえて提示されることになります。
ファーイースト国際特許事務所弁護士 都築 健太郎 03-6667-0247