東京・上野と浅草のほぼ中間にある「かっぱ橋道具街」は、調理器具、食器、厨房設備、食品サンプルなどを扱う専門店街です。その名称は、商店街の小売・卸売サービスを指定した地域団体商標として全国で初めて登録されました。
登録年は2006年ではありません。地域団体商標制度が始まったのが2006年で、「かっぱ橋道具街」の登録は2013年です。制度の開始年と個別商標の登録年を分けて理解すると、この地域ブランドの歩みが正確に見えてきます。
「全国初」が意味するもの
「かっぱ橋道具街」は、商標登録第5578351号として2013年4月26日に登録されました。権利者は東京合羽橋商店街振興組合です。特許庁は、商店街が提供する小売等サービスの地域団体商標として全国初の登録事例と紹介しています。
ここでいう全国初は、地域団体商標制度の全登録案件の第1号という意味ではありません。農産物、工芸品、温泉などを含む制度全体では先行例があります。「商店街」と「小売・卸売の業務で行う顧客への便益の提供」という組合せで初めてだった、という限定付きの評価です。
地域団体商標の制度そのものは2006年4月に導入されました。地域名と商品・サービス名を組み合わせた文字商標について、全国的な著名性まで達する前でも、一定の地域で需要者に知られていることなどを立証して登録を目指せる仕組みです。制度の概要は地域団体商標の解説でも確認できます。
道具街が育ててきた信用
かっぱ橋道具街の起源は、明治末期から大正初期に新堀川沿いへ集まった古道具店にさかのぼります。その後、料理飲食店向けの器具、製菓道具、食器、包装用品などを扱う店が集まり、約800メートルに専門店が連なる街へ成長しました。

第二次世界大戦で大きな被害を受けた後も店舗が再建され、業務用の道具を探す料理人や飲食店を支えてきました。今日では一般客や観光客も訪れますが、地域ブランドの土台にあるのは、商店街と加盟店が長年積み重ねた品ぞろえ、専門知識、接客への信用です。
「かっぱ橋」という名前の二つの説
名称の由来には二つの説が伝わっています。一つは、武士や足軽が内職で作った雨合羽を近くの橋に干したという「雨合羽説」。もう一つは、水はけの悪い土地を改修しようとした合羽屋喜八を河童が手伝ったという「河童説」です。どちらも商店街の公式沿革で紹介され、街の物語として受け継がれています。
地域団体商標として守られる範囲
登録第5578351号が指定するのは第35類の小売・卸売サービスです。具体的には、東京都台東区松が谷・西浅草地区で、業務用加熱調理機械器具、鍋類・やかん、食品見本模型、白衣、業務用冷凍冷蔵庫を販売する業務に伴う顧客への便益の提供が記載されています。
したがって、「かっぱ橋道具街」という文字をあらゆる商品や事業について無条件に独占する権利ではありません。商標権の効力は、登録商標と指定商品・指定役務を基準に判断されます。表示の似方だけでなく、使われる商品・サービスとの関係も確認します。
地域団体商標として登録するには、出願主体、構成員による使用、地域との密接な関連、需要者間の周知性などが審査されます。単に地名を含む名称を考案しただけでは足りません。販売実績、広告、報道、イベント、加盟店による継続使用など、地域全体で築いた信用を示す資料が登録を支えます。
商標権者は東京合羽橋商店街振興組合です。加盟店は団体が定めたルールに沿って表示を使います。各店舗が登録第5578351号を個別に所有するのではなく、団体が共通の表示を管理し、構成員が商店街のサービスへ使う仕組みです。
登録までの道のりと複数の商標
商店街では「かっぱ橋」「カッパ橋」「合羽橋」などの表記が使われていました。ブランド保護のためには、需要者が一つの名称として認識できるよう「かっぱ橋道具街」の表示を継続して使い、周知性を裏付ける過程がありました。
通常の文字商標では、地名とサービス名を組み合わせた表示の識別力が問題となります。商店街は制度整備前にも文字商標の保護を検討しましたが、全国的な著名性の立証が壁になりました。地域団体商標制度と小売等役務商標制度が整った後、商店街100周年の取組も背景として、文字商標の登録に至りました。
文字以外の表示も別々に保護する
商店街は文字商標だけに頼っていません。かっぱの図形については商標登録第4823272号があり、2012年には街に設置された「かっぱ河太郎」の立像も立体商標として登録されています。文字、図形、立体物は見た目も使い方も異なるため、別の商標として保護する発想です。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
地域ブランドを守り育てる使い方
地域団体商標を取得した後は、誰がどの表示を使えるかを組合内で共有し、表示の品質をそろえる運用が欠かせません。加盟店の旗やステッカーは、来街者に正規加盟店を伝える目印となり、商標を街の信用へ結び付けます。
「かっぱ橋道具街」公式サイトより引用
一方、登録があるだけで商品の品質や店舗の加盟状況が自動的に保証されるわけではありません。団体が使用ルールを定め、構成員が表示を守り、無関係な事業者による紛らわしい使用を発見したときに事実関係を確認する。その日常的な管理がブランド価値を支えます。
公式沿革によると、商店街は1996年にウェブサイトを開設しました。店舗検索や多言語での情報発信は、来街前の人にも名称と街の特徴を伝えます。現地の旗、催事、オンライン案内で同じブランドを継続して見せることも、名称とサービスを結び付ける活動です。
地域名を冠した商品やサービスを育てる団体は、名称だけでなく、ロゴ、キャラクター、イベント名、オンライン販売で使う表示も棚卸しすると保護の漏れを見つけやすくなります。小売サービスを指定する際の考え方は小売等役務商標制度の解説も参考になります。
よくある質問
Q1.「かっぱ橋道具街」は2006年に登録されたのですか?
いいえ。2006年は地域団体商標制度が始まった年です。「かっぱ橋道具街」は2013年4月26日に商標登録第5578351号として登録されました。
Q2.何が「全国初」だったのですか?
商店街が提供する小売・卸売サービスを指定した地域団体商標として全国初でした。地域団体商標制度全体で最初の登録という意味ではありません。
Q3.登録は街で売られる商品すべてを守りますか?
登録第5578351号の範囲は、第35類に記載された特定の小売・卸売サービスです。個別の商品名、ロゴ、キャラクターなどは、それぞれの商標と指定商品・指定役務を確認します。
Q4.地域名を含めば地域団体商標にできますか?
地域名を含むだけでは登録されません。出願できる団体か、構成員が使う商標か、地域と商品・サービスに密接な関係があるか、一定範囲の需要者に知られているかなどが審査されます。
Q5.文字商標を取ればロゴや立体物も同じ権利で守れますか?
文字、図形、立体的形状は別の商標として検討します。実際に、かっぱ橋道具街では文字の地域団体商標に加え、図形商標や立体商標も登録されています。
かっぱ橋道具街の事例は、地域の歴史そのものではなく、歴史から生まれた信用を誰がどのサービスに使うのかを商標登録で明確にした例です。登録年、権利者、指定役務を正確に確認することが、地域ブランドを語る出発点になります。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
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