鍋とやかんの権利を入れ忘れた調理用具の商標権が急増中

無料商標調査 商標登録革命

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初めに

今週は食器関係の商標権の権利申請漏れ問題を特集しています。商標登録の願書を作成する際に、素人さんが願書を作成したらきっとここを落とすと予測できる指定商品の範囲があります。そこを集中的に調べるだけで、ぼろぼろ権利申請漏れがある商標権が見つかります。今日は、調理用具の商標権の指定の際に、無料で追加できる鍋とかやかん等をまとめて入れ忘れているのではないか、という事前予測を立てて、現実がどうなっているかと照合してみます。

(1)鍋とかやかんが無料で追加できるのに何故か調理用具の商標権の権利範囲から抜けている件数が急増中

(A)願書作成時に入れておけば無料だが、後から入れると倍額がかかるのに教えてもらった形跡がない

食器関係の権利が指定されているのは商標法の区分の第21類ですが、この区分を指定しても自動的に食器関係の権利が補完されるわけではありません。

具体的に必要なものを指定商品として願書に記載しておかないと、権利申請漏れが生じます。

通常の手続きですと、仮に願書に記載し忘れた場合でも後から記載を忘れた項目を追加できる場合がありますが、特許庁に対する商標権の権利申請の際に項目の記載漏れがあると、後から記載漏れがあった事項を願書に追加することは拒否されます。

つまり、商標登録出願の願書を最初に特許庁に提出する前に、指定商品として調理用具に加えて、鍋とかやかんを追加するのは無料でできます。

しかし、最初に調理用具だけを指定商品として記入して特許庁に願書を提出してしまうと、鍋とかやかんは後から追加できず、もし鍋とかやかんとかの商標権が必要であると後から判明した場合には、調理用具を権利範囲に含む商標権を取得するのと同じ料金を払って、また、鍋とかやかんとかの権利を再取得する必要がでてきます。

通常なら、調理用具を売る人は、鍋とかやかんも売ると思います。 なぜ調理用具の商標権を取得する際に、鍋とかやかんの権利についての申請漏れを起こすのでしょう?

もし商標登録の手続きに不慣れな素人さんなら、調理用具の商標権の権利範囲に、鍋とかやかんとかの権利が含まれないのをご存知でないと思います。

そして一番の問題は、その様な、調理用具だけを指定した商標権が権利範囲に鍋とかやかんとかが含まれていないことを教えてくれる人がいない、ということです。

調理用具だけについての商標権が、本当にピンポイントでほしい、と考えている人が、鍋とかやかんとかが、最初に願書に調理用具に追加して記載するだけで、無料で得られることを知っているなら問題はないと思います。

けれども調理用具を権利範囲に含む商標権を取得する際に、誰も鍋とかやかんとかも合わせて追加料金なしで権利が得られることをあえて教えてくれなかったとしたら。

ちょっと考えるだけで恐ろしい事態が発生していることがわかります。

(B)2010年から2020年までの各年度で鍋とかやかんの権利申請漏れがある商標権について、調理用具を権利範囲に含むものについての数の推移を実測しました

下記の図1は、鍋とかやかんの権利申請をうっかり忘れたと推測される商標権の各年度の取得数の推移です。

これまでの事前予測では、いろいろ各分野でやからしている素人さんなら調理用具に気を取られて、食器を権利範囲に指定するのを忘れると想像でき、その通りどんぴしゃ権利申請漏れ案件が2020年に激増する結果でした。

この延長で、何も教えてもらっていない素人さんが調理用具を権利範囲に含む商標権を取得したなら、ほぼ間違いなく鍋とかやかんの権利取得を忘れると予測できます。

食器の権利の取得を忘れるなら、きっと鍋とかやかんとかの権利も取り忘れているでしょう。 実際はどうでしょうか。

Fig.1 鍋とかやかんの権利取得漏れを起こしている、調理用具を権利範囲にふくむ商標権数の推移を表したグラフ

鍋とかやかんの権利取得漏れを起こしている、調理用具を権利範囲にふくむ商標権数の推移を表したグラフ

調理用具を売る人が、調理用具を権利範囲に含む商標権を取得するのは理解できます。

しかし、調理用具を売る人は、鍋とかやかんとかは売らないのでしょうか。

最初に商標権の権利申請を特許庁にする際に、調理用具しか販売しない、と決め打ちしている場合でも、もしうっかり、将来鍋とかやかんとかを販売するようになった場合、最初に商標権を取得しなかったわけですから、そこには防御シールドが最初からなくて、権利に破れがあります。

そうすると、未来のどこかの時点で商標権トラブルを起こすことになります。

もし最初に願書に無料で追記しておけば、調理用具について商標権を取得する価格に追加料金なしで取得できたのに、わざわざ、後になって火種になるような権利をあえて取得しないのでしょうか。

本当は、調理用具だけの権利をピンポイント申請したのではなくて、調理用具を権利範囲に含む商標権を取得する際に、誰からも、調理用具に加えて無料で追加できる権利範囲があることを教えてもらってないのではないでしょうか。

そして最初に願書を作成して特許庁に提出するまでに願書に記載を入れることを忘れると、また倍額を業者に払って申請漏れを起こしたアイテムについて商標権を取り直す必要があるのを認識していたでしょうか。

(2)権利申請漏れしているのを教えてもらえないのは何故?

(A)権利申請漏れをしてもらう方が業者が儲かる

もう落ちは分かると思いますが、これから商標権を取得するお客さまが権利申請漏れを起こす方が、商標登録出願の手続き代行業者が儲かります。

最初に追加料金なしで一回で取得できる権利範囲を一回で一人のお客さまに取り切られると、一回分の手数料しかもらえないからです。

仮に追加料金なしで一回で取得できる権利範囲を二回に分けて取得してもらえるなら2倍の手数料がもらえます。 三回に分けて申請してもらえるなら三倍の手数料がもらえます。

つまり、権利申請漏れを起こしていることを業者側がお客さまに教えると、業者側が儲からないことになります。

(B)追加費用なしで権利範囲を広げることを教えると手間が増える

お客さまが調理用具を権利範囲に含む商標権がほしい、といった場合には、その通り、調理用具だけを含む願書を作るだけなら、驚くほど簡単に願書を作ることができます。

言われた以上のことをする必要がないからです。 調理用具だけを権利範囲に含む願書なら、鍋とかやかんとか、食器について権利申請をしていないわけですから、仮に鍋とかやかんとか、食器について先行登録商標で権利が他人に取られていたとしても、その部分は調べる必要がありません。

調理用具だけの商標権を取得する場合には、調理用具以外の指定商品について他人が商標権を取得していたとしても、特許庁の審査で全く考慮されません。

つまり、調理用具だけを指定して商標権の権利申請をする場合は、商標の調査をする際に、調理用具だけを調べればよいことになります。 つまり簡単に調査をすることができます。権利範囲が狭いので、調査にも手間がかかりません。

(C)ピンポイント申請で審査官との折衝を避ける

追加料金がもらえないなら、審査官と折衝して同一料金で追加費用なしでお客さまの希望する権利範囲を一回で取り切るよりも、ピンポイント権利申請で一発合格を目指す方が儲かります。 審査官との折衝時間を省略できるので、短時間で多くの出願件数を処理することができるからです。

(D)ピンポイント申請で不合格による手数料取りはぐれを防ぐ

商標登録出願の願書の権利範囲をできるだけ狭くすることで、他人の先行登録権利との衝突を回避できます。つまりあえて狭い範囲の空白地帯を狙うことにより審査官との折衝時間を避けるとともに、必ず合格させて、不合格による手数料の取りはぐれを防ぐことができます。

(3)お客さまは商標権取得後は内容をチェックしないのを知っている

(A)商標権取得前はお客さまは商標登録を調べるが、商標権取得後は調べなくなるのを知っている

一般論ですが、例えば旅行に出かける前はインターネットで現地の情報を調べたり、旅行会社の窓口でパンフレットを取り寄せたり、移動手段や宿泊先の費用とかをチェックすると思います。

ところがその様に綿密にチェックする人でも、実際に旅行にでかけた後に、同様にチェックをする人は圧倒的に少ないと思います。

すでに済んでしまったことには関心がなくなるからです。

ここの人間心理をとてもうまく突いていると私は思います。

上記の図1のグラフが意図的に演出された結果であるとするなら、それを立案して実行している人はものすごく頭がよいと思います。

お客さまが権利漏れの商標権を掴まされたことを自覚しないまま、権利漏れの疑われる大量の商標権を取得させて儲けることができるからです。

私なら儲かると分かっていたとしても、実行できないです。

手を抜けば抜くほど自分は儲かりますが、あまりにお客さまに対して不誠実すぎるからです。

上記の図1で、本当はお客さまは調理用具だけの商標権の権利範囲だけをピンポイントでほしいわけではなかった。 調理用具も含むが、追加料金なしで取得できる範囲があったなら、それも含めて良い感じの商標権が実は欲しかった、とお客さまが考えていた場合はどうでしょう。

まさにお客さまに対する背信行為になってしまいます。

お客さまから集団訴訟を起こされても不思議ではありません。将来高額で売却できるはずであった商標権の取得業務について、権利取得漏れを起こして内容がすかすかの商標権になったなら、その売却額が大きく下がることも予測できるからです。

この様な権利取得漏れを起こしたなら、故意または過失によりお客さまに損害を与えたと受け取られる可能性もあります。

もし専門家が商標登録出願の手続きをしたなら、職務倫理上、業務の手を抜くことを積極的にすることはできないです。 もし分かっていて実施している専門家がいるなら、耐震偽装設計事件と同様な事件に発展します。

(4)まとめ

たぶん多くのお客さまは、調理用具を権利範囲に含む商標権を取得した際に、鍋とかやかんとかの指定をあえてしていないのであれば、権利に含めるのに追加料金が発生すると誤解していたか、または、調理用具を指定すれさえすれば、後は自動的に鍋、やかん、食器等の権利が漏れなく付いてくると誤解していた場合でしょう。

どちらにしても、専門家からの的確なアドバイスがもらえたなら、わざわざ権利申請漏れを起こさなくても済んだことです。

それにも関わらず、図1の様なグラフの様に、なぜ2020年になって、あえて鍋とかやかん等の無料で追加できたアイテムをわざわざ権利範囲から落としてしまった商標権が急増しているのでしょう。

私にはどこか薄暗い企みが図1のグラフの裏に隠れているように思えるのです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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