せっけんの商標権で1年で5000万円相当分の歯磨き権利漏れが発生か?

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初めに

ここ連日、注意喚起のために商標権の権利申請漏れ疑惑問題をスクープしています。

取得するのに追加料金が発生しない範囲であえてわざわざ取得できる権利範囲を取り忘れたと疑われる商標権が大量発生しています。

今回は、せっけんを権利範囲に含む商標権について、歯磨きを権利範囲に含めるのを忘れた件を取り上げます。

2020年の1年だけで、歯磨きの権利を取り忘れた疑惑のある商標権が一気に1200件以上、前年より増加しています。

仮に権利を取得し忘れた歯磨きの商品について権利を取り直すと仮定すると、権利補充だけで10年分の料金でおよそ5000万円分の権利申請漏れがあったことになります。

最初に追加料金なしで願書に記載するだけで権利が得られたにも関わらず、あえて1年でこれだけの取得されなかった商標権が発生しています。

(1)2020年の1年で歯磨きを含まないせっけんの商標権が5000万円分増加

(A)特許庁に提出する願書に、せっけん類に加えて無料で歯磨きを記入するだけなのに、なぜか記入忘れの案件が激増している

2020年は、申し合わせた様に、ほぼ全ての業務分野で、取得するのに追加料金が発生しない商品や役務の権利指定漏れが急激に増加しています。

今回取り上げる事例では、たった1年で1200件以上の権利取得漏れが疑われる商標権が2020年に発生しています。

商標登録の審査に合格すると、10年登録にするか、または10年を二回に分割して5年毎の登録にするかを選べます。10年一括で特許庁に支払う特許印紙代の方が、5年分割で特許庁に支払う印紙代よりも一回当たりの支払いは高くなりますが、5年分割にすると割高になります。

仮に、商標権を取得する際にせっけん類を権利範囲に含む場合は、せっけん類を含む分類の第3区分1つで足ります。この1つの区分の10年登録に必要な特許庁に支払う印紙代は、ざっくり4万円程度です。

この石鹸類を権利範囲に含む商標権を取得する際に、あわせて歯磨きを指定しても追加料金はかかりません。

それなのに、昨年1年だけで1200件以上の商標権について歯磨きを権利範囲に含まず、せっけん類だけを含むものが発生しています。

本来なら権利取得に追加費用は必要なかったのに、今から権利を補充しようとすると、特許庁に支払う印紙代だけで、約5000万円が確実に追加費用として必要になる状況が発生しています。

(B)せっけん類だけを使い、歯磨きを使わないのであれば、権利を取る理由がないのか

ここがうっかりしやすいところですが、現時点で使用している指定商品だけでなく、将来使用する意思のある指定商品についても商標権を取得することができます。

商標法の第3条第1項柱書きに「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標について、商標登録を受けることができる」との旨の規定があります。

もしかすると誰かが正確でない法解釈を広げているのかもしれませんが、自己の業務に使用するとの意味は確実に使用することが決定されているものだけではなく、使用する意図があるだけでも特許庁の審査に合格できます。

近い将来に商標に使用するつもりであったけれども、実際にはコロナ等の影響で使用を予定通り開始することができなかった場合等はとくにペナルティはありません。

ただし、ペナルティがないからといって、使用する予定が全くない商品や役務について権利を取得しても、別途不使用取消審判により商標登録が取り消される場合があります。

実際に自己の業務に使用しない商品や役務を指定して商標権を取得したところで、使用していない指定商品や指定役務ごとに第三者から三年間の日本国内における商標の不使用を理由として登録の取消を請求される場合があります。

実際に不使用取消審判を請求するかどうかは第三者の判断次第になります。

ただし、せっけん類以外にも歯磨きを使う可能性があるなら、せっけん類だけを権利範囲に限定せず、歯磨きも権利範囲に含めて商標権を取得するべきです。

後からやっぱり歯磨きも必要だった、ということが判明したなら、最初にせっけん類だけを権利範囲に含む商標権を取得した際に要した費用と同額の費用を支払う必要があるからです。

最初にせっけん類についての商標権を取得する際に、あわせて歯磨きも指定しておけば、追加費用無料で権利を取得できます。

ところがうっかり無料で追加できる商品の指定を入れ忘れると、後から倍額を請求されて大変なことになります。

(2)せっけん類を権利範囲に含むが歯磨きが権利に含まれない商標権の各年度の発生数の変化

(A)なぜわざわざ歯磨きの権利を落として、せっけん類だけの指定商品しか含まない商標権を取得するのか

近年はリアル店舗の展開に加えてネット通販の展開も普通にあると思います。実店舗では仮にせっけん類だけを扱い、歯磨きを取り扱わない場合があるにしても、ネット通販の場合の展開を考えると、あえてせっけん類だけの権利に権利範囲をせまく設定する必要はあるのでしょうか。

Fig.1 2010年から2020年の各年度について、権利範囲にせっけんを含むが歯磨きの権利を入れ忘れた商標権の発生数の推移を示すグラフ

2010年から2020年の各年度について、権利範囲にせっけんを含むが歯磨きの権利を入れ忘れた商標権の発生数の推移を示すグラフ

上記の図1のグラフから分かる通り、わざわざ石鹸類だけに権利範囲を狭く設定し、歯磨きを権利範囲に含まない商標権が激増しています。

商標権を取得する際には、とにかく商標権さえ取得できればよい、と考えている方が多いかもしれません。

けれども権利が抜け落ちている商標権を、高いお金を払って取得すると後で苦労します。

まず、権利が抜け落ちている範囲については、他人がこちらの登録商標を無断で使っていても商標権侵害でやめさせることができません。権利が抜け落ちた部分について権利を取得していないので、主張すべき基礎となる権利を持っていないからです。

それどころか、商標権で権利取得漏れを起こすと、第三者にその取得漏れを起こした部分の権利を横取りされてしまうかもしれません。

商標法上は、権利に抜けがある部分は、権利を主張する意思がないとして扱われます。このため、権利取得漏れを起こしてしまった部分を他人に取られても文句がいえない状態になります。

さらには商標権は土地と同じで売却できる権利なのですが、権利が抜け落ちている商標権は敷地内に他人の土地がある場合と同じで、高額売却が期待できません。

将来の商品展開も十分に検討した上で、追加料金の発生しない範囲できちんと権利を取っておけば何ら問題がなかったのに、権利漏れを起こした部分の権利を補充しようとすると、最初に要した費用と同額の費用がかかります。こういったことが、現在進行系で生じているのです。

(3)商標出願代行業者は願書を確認していないのではないか

連日注意を喚起していますが、私はお客さまから商標登録出願の業務依頼を受けた手続代行業者が、実際に特許庁に出願する提出願書を確認していない、と疑っています。

上記の図1のグラフの様な形状に、2020年になって急激に歯磨きの権利をわざわざ抜いて、せっけんだけを権利範囲に含む商標権が激増する理由がないからです。

ちなみに、図1の様に、権利の取得漏れが疑われる事例は、特定の業務分野だけではなく、広く観測できます。

なぜこんなことが起きているのか。

どのサービス業も同じですが、商標登録の出願代行業者側は、業務の手を抜けば抜くほど儲かります。

例えば、宣伝広告で多くのお客さまを集めて、下請けに仕事を丸投げすることが想定されます。下請けはレベルが低ければ低いほど、中間マージンを多く抜くことができます。近年、弁護士法人の中にはテレビで大量にお客さまを集めて億単位のお金を集めてから倒産してしまったところもあります。

実際のところは私がタッチしているわけではないので想像になってしまいますが、お客さまの悩みに寄り添う、というよりは、お客さまの財布に寄り添うようになっているのではないか、と懸念しています。

もし下請けに丸投げするとか、バイト下請けに任せっきりにしてどの様な願書が特許庁に提出されているか確認していない場合には、図1の様なグラフになると予測できます。

プロなら、ひと目見れば、せっけん類を権利範囲に含むのに、歯磨きが権利範囲から抜けているなら、簡単に気がつくからです。

それにも関わらず、全く是正された様子がありません。

それどころか、権利漏れを起こしたお客さまが、後になって歯磨きの権利が抜けていたことに気がついた段階で、再度最初に石鹸類について商標権を取得したときと同額の費用を払って歯磨きについて商標権を再取得してくれるのであれば、さらに儲かります。

お客さま側は、最初に権利を取得する際に、せっけん類に併せて歯磨きを指定しておけば無料で権利が得られたことは案内されていないので、わざわざ2倍の費用を支払う結果になったことに気が付きようがありません。

(4)まとめ

実際に石鹸類だけを権利範囲に含み、歯磨きの権利が抜け落ちた願書を作成して特許庁に提出してしまうと、後からは一切歯磨きを補充する機会がなくなります。

そして手続き代行業者側は、お客さまが手続き漏れを起こしているのを教えない方が余計な手間がかからず、短時間で多くのお客さまに対応できるため、儲かります。

そしてお客さまから権利取得漏れを指摘されたところで、「聞いてない」の一点張りで、シラを切り通すと予測できます。

そうでないと、権利漏れを起こしてしまい、今から権利漏れ部分を補充するための特許庁印紙代5000万円分を支払うことになってしまうからです。

ここまでの度胸がないと、図1の様な、たった1年で権利取得漏れが疑われる案件が1000件単位で増加しないです。

ただ、黙っていると泣き寝入りになってしまいます。

権利取得漏れに気が付かれた方は、なぜ最初の商標権取得の際に、無料で権利が取得できた範囲があることを教えてもらえなかったのか、聞いてみてください。

またこれから商標登録を実際に行う方は、これから提出する願書に記載されている専門家に、この内容で本当にこちらの希望する内容が反映されているのか直接問いただしてください。

誠意ある弁理士なら、丁寧になぜそうなっているのか納得のいく説明をしてくれます。

これに対して、実際には専門家がいるかの様にふるまっているだけのモグリ業者の場合には弁理士が電話口や窓口に出てくることはありません。

弁理士にはモグリ業者に協力してはいけないとの法律があるので、違法業者に弁理士が手を貸すことはありません。

もし願書に記載されている弁理士に連絡が取れない場合には、まよわず日本弁理士会に電話をかけて相談をお願いします。

実際に願書を特許庁に提出した後では、本当に回復手段がなくなります。また悪どい業者の場合には5万円や10万円くらいで訴訟をかけてこない、とたかを括っている可能性もあります。らちがあかない場合には、日本弁理士会が力になってくれます。

まよわず相談くださるよう、お願いいたします。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

 

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